ディープラーニング一色ではない「人工知能研究」の現状と今後の展望:MATLAB EXPO 2016
製造業に関する領域でも耳にする機会の増えた「人工知能」だが、急激に発展している領域だけに、現状を正確に把握するのは難しい。「人工知能研究の現状と今後の展望」とは。
ITやICTの領域ではもちろん、製造業においても取り上げられる機会の増えた「人工知能」だが、急激に発展している領域だけに、現状を正確に把握するのは難しい。
機械学習理論とアルゴリズム開発、データマイニングなどを研究する東京大学の杉山将教授はThe MathWorksのユーザーイベント「MATLAB EXPO 2016」に行われた講演、「人工知能研究の現状と今後の展望」(2016年10月19日)の中でアカデミックな観点から「人工知能研究の現状と今後の展望」を解説した。
人工知能研究はディープラーニング一色ではない
壇上の杉山氏は、自身の専門である機械学習とアルゴリズムの観点から、人工知能研究を振り返ることから語り始めた。機械学習とは「人間の学習」に相当する行為をコンピュータで実現する人工知能研究の1分野であるが、その目的のためにいくつかのアプローチが存在する。
代表的なものとして、人間が教師となってコンピュータを学習させる「教師付き学習」、エージェントが試行錯誤して学習する「強化学習」、コンピュータが人間の手を介さずに学習する「教師なし学習」の3つを紹介した。これらの手法は既に実世界への応用が行われており、「顔画像からの年齢認識」「動画からのイベント検出」「半導体露光装置におけるウェハー位置合わせ」などに利用されている。
NICTとATRが共同研究したヒューマノイドロボットの強化学習例。ボールを投げてゴールに入らないと、その結果を環境から学習し、最終的には100%シュートが決まるようになる。しかし、ボールを持たせるというデータを作る前段階にかなりの手間が発生する。このように強化学習は周辺情報の収集が1つの課題となる
利用例を列挙してみると「人工知能」という言葉のイメージにそぐわず、世間的には自動運転車や会話するロボット、世界チャンピオンに勝利したコンピュータ囲碁などに「人工知能」のイメージを重ねている。しかし、杉山氏は「人工知能の背後には、コンピュータに人のような学習能力を持たせる機械学習の技術が用いられている」と指摘する。
その証拠に、人工知能に関する関心の高まりとともに、機械学習に関する代表的な国際会議であるNIPS(Neural Information Processing Systems)やICML(International Conference on Machine Learning)への参加者は2013年ごろから倍々ゲームに近い勢いで増加しており、スポンサードする企業の顔ぶれも広がりを見せている。
これまではIMBやMicrosoft、Googleといった大規模な研究開発部門を持つIT企業が主であったものが、AmazonやFacebookといったWebサービスを主とする企業、それにHuawei、Tencent、BOSHやVISA、Broombergといった製造や金融といったこれまで関係性が薄いと思われていた企業も参加している。研究者も増え、企業からのサポートも手厚くなることで、機械学習研究の加速が期待される状況にあるといえる。
その機械学習の中でも、実産業への応用という観点から話題になることが多いのは深層学習(ディープラーニング)だろう。杉山氏によれば2015年におけるNIPSでの採択論文(403本、投稿論文は1838)のなかでカテゴリーとして最も投稿数が多かったのが深層学習であったという。
しかし、最多といっても深層学習に関する論文は採用論文中11%であり、多いことは確かであるが、支配的とまでは言えない。凸最適化や統計的学習理論などの論文も多く投稿されており、学会レベルではまだまだ数多くのトピックが現在進行形で研究されているのだ。
教わっていないことに答える「究極の人工知能」
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