「沖縄観光×超小型EV」、乗って分かった真の魅力と普及への壁:沖縄モノづくり新時代(3)(1/3 ページ)
エンジニアリングやモノづくり分野の技術進化が、今まで以上に地方の課題解決や魅力発掘の後押しとなる。本連載の主役は、かつて“製造業不毛の地”といわれていた沖縄。第3回では観光分野における超小型EVの可能性と普及に向けた課題について、実証実験「ちゅらまーい Ha:mo」に参加した感想を交えながら紹介する。
沖縄の基幹産業である観光・レジャー。ここ数年、沖縄を訪問する観光客数は順調に推移しており、2015年度の入域観光客数は793万人と過去最高記録を3年連続で更新した。
一見すると好調そのものだが、沖縄全体がこの恩恵を受けているわけではない。沖縄県内のそれぞれの地域で「濃淡」が出ているのが現状だ。
象徴的だったのが、沖縄の地方紙「沖縄タイムス」の2016年4月30日の紙面である。「美ら海水族館」がある海洋博公園の2015年度入園者数が4年連続で過去最高になったことを報じる記事のすぐ後に、沖縄南部にある糸満市が観光客の「素通り」に頭を悩ませていることを紹介する記事があった。
知名度の極めて高い観光スポットにだけ人が集まり、それ以外の地域は観光資源があるにもかかわらず素通りされてしまう――。観光地/スポットの集客力の格差は、観光立県である沖縄だけではなく、日本各地の観光地が頭を悩ませている大きな課題だ。
このような課題を解決する手段として2013年ごろから注目されてきたのが、「超小型電気自動車(EV)」である。超小型EVは、軽自動車よりもコンパクトで小回りが利き、手軽に乗れて使い勝手が良い(図1)ため、観光地における新たな交通手段として、日本各地で実証実験が進められてきた(表1)。
図1 超小型電気自動車(EV)を観光地で使った実証実験が各地で進められてきた。写真は、沖縄の本部観光協会で使われている超小型EV「コムス(COMS)」。トヨタ車体製で、長さ2.4m×幅1.1m×高さ1.5m ※クリックで拡大表示
開始時期 | 実施団体または実施自治体 | 内容 | レンタル料金 |
---|---|---|---|
2013年4月 | 福岡県 糸島市観光協会 | 糸島の観光振興の重点地域である山側エリアの観光の推進を目的に貸し出し | 1時間1000円(1人乗り) |
2013年7月 | 香川県 豊島モビリティ協議会 | 豊島の島内交通手段として小型EVを貸し出し | 1日8400円 |
2013年10月 | 岩手県西磐井郡平泉町 | 新たな二次交通手段として小型EVの可能性を検証 | 無償 |
2013年11月 | 北九州市 超小型モビリティ導入促進協議会 | 門司港から門司地区までの区域の観光用移動手段として提供 | 30分当たり1000円 |
2013年11月 | 福井県 三国観光協会 | 小型EVを3台導入し、観光用の移動手段として希望者に貸し出し | 2時間1500円 |
2013年12月 | 福岡県 福岡超小型モビリティ推進協議会 | 福岡市内の歴史スポットを巡る観光用レンタカーとして、希望者に貸し出し | 2時間2000円 |
2014年4月 | 広島県 大崎上島町観光協会 | 「大崎上島」内の観光周遊および移動手段として希望者に貸し出し | 3時間3000円、別途保険料500円 |
2014年5月 | 三重県伊勢市 | 小型EVを観光客に交通手段として活用する検討するため、一般参加者を募った観光モニターツアーを開催 | ー |
2014年7月 | 大分県東国東郡姫島村 | 島内の回遊性・利便性を向上させることを目的に2次交通として小型EVを活用 | 1時間2000円 |
2014年10月 | 山口県下関市 | 地元住民や観光客のより良い移動手段の検証を目的に実施 | 30分500円 |
2014年9月 | 鳥取市智頭町、鹿野町、米子市 | 点在する観光スポットを効果的に結ぶ移動手段の候補として超小型EVを利用 | 3時間1500円(智頭町)、3時間2500円(鹿野町、米子市) |
2015年4月 | 奈良県 明日香村地域振興公社 | タブレット端末を搭載した小型EVを観光客に貸し出し(17台導入)。近距離通信技術「iBeacon」で観光スポットの情報をタブレット端末に表示 | 3時間3000円 |
2015年11月 | 埼玉県 長瀞町観光協会 | 長瀞観光における2次交通手段の検証を目的に、小型EVを希望者に貸し出し | 1時間500円(保険料) |
2016年1月 | 沖縄県 本部町観光協会/今帰仁村観光協会 | タブレット端末を搭載した小型EVを観光客に貸し出し(30台導入) | 2時間3000円 |
表1 観光分野で超小型EVを活用した実証実験の例。Web上で公開されている情報を基に、観光分野で超小型EVを活用した事例をまとめた(既に実証実験を終えた事例も含む) |
超小型EVの特徴だけを見ると観光地の移動手段にぴったりだと思える。しかし、実際には本格的なサービスとして広がっていないのが現状だ。
なぜなのか。筆者は沖縄県北部の本部町で2016年1月に始まった「ちゅらまーい Ha:mo」と呼ぶ実証実験を利用し、小型EVに試乗する機会を得た。超小型EVに対して乗る前に持っていた印象と、乗って肌で感じたことは大きく異なり、さまざまな気付きがあった。
地域観光における小型EVの“真の魅力”とは? 普及に向けて解決すべき課題とは? 本部町観光協会やトヨタ自動車の担当者への取材、試乗して感じたことを基に紹介しよう。
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