宮田健の「セキュリティの道も一歩から」(113)
誰が旗を振る? 「内部不正対策」は喫緊の課題(2/2 ページ)
他社からの指摘がある前に兆候をつかめるか?
このレポートでは、「どのようなことから漏えい事例を認識しましたか」という調査結果もまとめられています。
それによると、漏えい事例を認識したきっかけとして最も多かったのは、「第三者から、貴社の情報が漏えいしているのではないかとの指摘を受けた」と「貴社しか知り得ない情報を他社が使用しているのを偶然発見した」の2項目です。これに続いて、「漏えいを察知できるような自発的な活動によって流出が発覚した」「貴社製品の類似品が市場に出回った」といった項目が挙げられています。
この結果から、社内で営業秘密の漏えいを検知できたときには、既に被害が進んでしまっているケースが非常に多いことが分かります。ビジネス上重要な情報が漏えいしているにもかかわらず、外部から指摘されるまで気付けない――。これは、経営者にとって本当に恐ろしい事態といえるのではないでしょうか。
なお、「営業秘密の侵害行為への対応」としては、「警告文書を送付した」「民事訴訟を提起した(仮処分命令の申立てを含む)」「懲戒解雇とした」「刑事告訴を行った」といった対応の割合が、前回調査と比べて顕著に増加しています。
裏を返せば、このような営業秘密が漏えいした結果、自社にそれが持ち込まれる可能性も高くなっているわけです。では、「情報が持ち込まれた」ことを組織は検知できるのでしょうか。
調査結果で「貴社しか知り得ない情報を他社が使用しているのを偶然発見した」という回答がそれなりに大きな割合を占めているということは、おそらく日本企業で働く現場の社員が、高いコンプライアンス意識を持っている証といえるでしょう。だからこそ、現場の社員が不正を正しく報告できる仕組みを、組織として整備することがとても重要です。
内部不正への対策は、ITソリューションだけで完結するものではありません。組織の社風や結束といった「人間力」も試されていると考えてよいのかもしれません。
しっかりせよ、経営層!
個人的に今回の統計で最も気になったのは、「営業秘密の漏えいに関して必要な対策」を業種、従業員数、売上高、所属部門別に集計した表の数値です。
この表には読み解くべきポイントが数多くありますが、筆者が特に注目したのは「従業員数300人以下」「売上10億円以下」のグループにおける「経営層」です。この項目をよく見てみると、対策として挙げられている多くの項目が、他のグループと比べて顕著に低いことが分かります(製造業よりも非製造業の方が数値が低く、製造業は頑張っている、とも捉えられます)。
特に問題と感じたのは、「脅威と感じているものはない」という回答が53.5%にも上る点です。これは、経営層がそもそも現状を認識できていないことを示しており、大変印象的でした。これでは、現場の頑張りが無駄になってしまいます。
この報告書では、内部不正を誘発する要因についてもまとめています。現場では「人間関係などへの恨みが大きい」「借金のある人が営業秘密を扱う」「弱みを握られて脅迫されている」といった状況が不正につながると認識されています。
不平、不満が要因の一部であることを考えると、経営者は内部不正による営業秘密の漏えいを、経営上のリスクとして正しく認識する必要があります。これは単なるセキュリティ部門の課題ではなく、経営層がサイバーセキュリティリスクと同列に考え、サイバーセキュリティ対策で導入した仕組みを応用して対応すべき課題です。そして何よりも、経営層がそのリスクを十分に認識、理解しなければ何も始まりません。
今回のコラムでピックアップしたのは、報告書のごく一部にすぎません。組織は人が作る以上、人の弱い部分も認識し、枠組みを作る必要があります。「組織の仲間が犯罪を犯すかもしれない」と考えるのは大変辛いことです。だからこそ、未然にその芽を摘むための対策を組織として整えていかなければなりません。
IPAは「組織における内部不正防止ガイドライン」(+内部不正チェックシート)など、有用な資料も公開しています。今回紹介した調査報告書と併せて、ぜひ一度チェックしてみてください。
著者紹介:
宮田健(みやた たけし)
元@ITの編集者としてセキュリティ分野を担当。現在はフリーライターとして、ITやエンターテインメント情報を追いかけている。自分の生活を変える新しいデジタルガジェットを求め、趣味と仕事を公私混同しつつ日々試行錯誤中。
2019年2月1日に2冊目の本『Q&Aで考えるセキュリティ入門「木曜日のフルット」と学ぼう!<漫画キャラで学ぶ大人のビジネス教養シリーズ>』(エムディエヌコーポレーション)が発売。スマートフォンやPCにある大切なデータや個人情報を、インターネット上の「悪意ある攻撃」などから守るための基本知識をQ&Aのクイズ形式で楽しく学べる本です。
筆者より:TechFactoryでの本連載では、ITセキュリティの「あるべき論」「正論」だけでなく、モノづくりに携わる方たちに「気楽に」「楽しく」セキュリティを考えていただけるように、さまざまな話題を取り上げたいと思います。「セキュリティっていわれてもねえ……」と思わず考えてしまった皆さんに覚えていただけるようなコラムにしたいと思います。お楽しみに!
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宮田健の「セキュリティの道も一歩から」
「モノづくりに携わる人」だからこそ、もう無関心ではいられない情報セキュリティ対策の話。でも堅苦しい内容はちょっと苦手……という方に向けて、今日から使えるセキュリティ雑学・ネタをお届けします。
この記事の著者
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