大原雄介のエレ・組み込みプレイバック
FD-SOIがついに大規模量産で日の目を見るのか? STの戦略を読み解く(3/3 ページ)
MCU向けのニーズはなかったFD-SOI
それでもSamsungは、冒頭でも触れたように比較的単価の高いMPUおよびFPGA向けでこそ大口のデザインウィンを獲得したが、GlobalFoundriesは小規模な製品はともかく、ロジック向けに大きなデザインウィンは獲得できなかった。ここで「ロジック向けに」と書くのは、RFおよびパワー向けにはそれこそ量産能力が足りない程の受注を獲得しており、それもあって2022年にはSTと共同で、Crollesに300mm Fabを新設。年間最大62万枚のFD-SOIウエハーの生産能力を持つを2026年までにフル稼働に持っていく事を発表している。この新Fabの容量の58%はGlobalFoundriesのものとなるので、同社は年間36万枚、月産3万枚のFD-SOIウエハーを製造するキャパを獲得したわけだ。つまり、FD-SOIの需要そのものは確実に存在している。
その一方で、MCU向けにFD-SOIを使うニーズが無かったのは、一般にはコスト高が問題とされる。車載向けMCUの場合、特にStellar SR6のようにマルチコアのLockstep動作をサポートし、大容量SRAM/ePCMを搭載する製品だと単価が高いからあまり問題になりにくいが、一般向けのMCUではFD-SOIウエハーそのものがバルクCMOSより3割以上高いため、どうやっても同等プロセスのバルクCMOSよりも高価格になる点がネックになる。
また、かつてはFD-SOIは省電力性に優れるといったメリットが強調されていたものの、バルクでもFinFET構造を取るなどして省電力特性を改善しており、実際に現状どこまでバルクCMOSに対してメリットがあるか? というと、よく分からなくなっている。Body Biasを掛けることで省電力性を向上させやすいのは事実(GlobalFoundriesの以前の発表では、配線層を1層増やすだけで対応できるとしていた)だが、その分コスト増につながるのも事実であり、やはり低価格性が重視される一般向けMCUには使いにくい。特に昨今では16nm世代のFinFETプロセスの製造価格が下落し、28/22nm世代のバルクCMOSプロセスも製造装置の減価償却が完全に終了し、かなり安価で提供されるようになっている。こうした背景を考えると、この時期にSTが18nm FD-SOIにePCMを組み合わせ、将来のSTM32の製造を行う戦略を引き続き進める、というのはなかなか勇気のある決断であると言わざるを得ない。
FD-SOIでの大規模量産がついに始まるのか
強いて言うならば、STの戦略としてMCUは自社製造を貫きたいという意向があり、だからといって同社の40nmのバルクプロセスを28nmなり16nm FinFETなりに移行するのはコストの面からも、差別化要因にならない辺りからも賢明な選択肢とは考えにくい。28nmも16nmも既に成熟したプロセスであり、わざわざそのためにラインを新設するくらいなら外部で委託製造した方が良い。また28nmはともかく16nmに関してはEmbedded Flashの製法がまだ確立していない(TSMCはルネサス エレクトロニクスと共同で開発を完了しているが、GlobalFoundriesは筆者が知る限りFlashではなくeMRAMしかまだ提供できていない)ので、後追いでこれを開発するのは猛烈なコストが掛かる。STのePCMは、こちらの説明を見る限りFD-SOIを前提とした構造のようで、これをバルクCMOSに持ってゆくのは一筋縄では行かないだろう。そうなると消去法的に18nm FD-SOIしか残らかった、という辺りが一番実情に近いのではないかと思う。
自社製造にこだわるべき理由があるのであれば理解はできる。ただ、競合製品、例えばInfineon Technologiesは次世代MCUをTSMCの「22ULP」を利用して製造する事を既に明らかにしているが、これに対して十分な価格競争力を本当に維持できるのかどうかはまだ定かではない。これがうまくいけば、FD-SOIとしてはほぼ初めてと言ってよい規模の製品出荷が実現する事になるだけに、ちょっと楽しみである。
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