大原雄介のエレ・組み込みプレイバック
5社が共同でRISC-Vベースプロセッサを開発、その狙いは?(2/2 ページ)
ではRISC-V対応を行うとして、どうするべきか? Renesasは先に書いたようにまず外部からCPU IPを購入して製品化を行い、その間に自社でRISV-Vコアを開発するという方策を取った。ただ今回の5社のうち、Qualcommを除く4社は「余り」CPUを自社で設計した経験がない。厳密に言えばInfineonはTriCoreシリーズのプロセッサを自社で開発しているし、NXPはFreescale時代にPowerPCやColdFireを、Motorola時代には68Kとか88Kを設計設計しているから全く未経験という訳ではない(少なくともInfineonはまだTriCoreのチームが存続していると思われる)が、NXPの方はもうPowerPC/ColdFireのチームが現存しているかちょっと怪しい。これはBoschも同じで、過去に独自のMCUは存在したが、現在は異なっている。こうした設計チームを維持するためには、常に新製品を作り続ける必要がある。ところが昨今ここの5社はArmを始めとするIPベンダーからCPU IPを購入し、これを使って製品を開発していた。つまりCPUの設計経験が乏しいということになる。
ただここでRISC-Vコアを外部から購入していたら、ArmのIPを購入していた時と全く差がない。Armの場合、高額なアーキテクチャライセンスを購入すれば自社でCPUコアを開発できるが、その場合の実装は厳密にArmが定めた仕様に合致する必要がある。確かに自社に開発経験という技術の蓄積は残るが、それはCPUの設計ではなく実装の経験でしかない。今回5社が共同開発に踏み切ったのは、共同で先端CPUの開発(設計から実装まで)を行う事で、その知見を自社に持ち帰りたかったのが最大の理由であろう、と考えられる。
5社での共同開発にした理由も分からなくもない。8bitのMCUくらいなら比較的小規模の会社でも可能である。32bitでもMCU向けの比較的コンパクトなコアであれば、これも開発コストは低く抑えられる。ただ64bitのそれなりのコアを開発しようとすると、これはそれなりの開発工数やエンジニアが必要になる。ただ問題なのは、このコアの全ての部分が差別化要因につながるか?というと必ずしもそうではない事だ。例えばRV32I/RV64I(32/64bitの基本命令セット)の実装は必須要件だが、そこで差別化を行うのは難しい。もちろん長期的にはそうした部分にも手が入る可能性はあるが、まずは動作するものを作るのが先であり、ここでは差別化が難しい。逆に言えば差別化が難しい部分は、他社と共有してもさして構わない訳だ。共有してもそうした部分の構築のノウハウは残るし、そのノウハウを元に後でその部分の差別化を測っても構わない。実際のところ、この新会社で構築されたCPUコアを、メンバー各社は第一弾の製品でそのまま使うはずだ。CPUコアは同じでも、周辺の回路などで十分に差別化できるからだ。CPUコア自身のそのものの差別化はその後でも問題ないし、例えばコアは一緒でも拡張命令を(これは自社だけで)実装するという方法もある。それでもスクラッチから自社だけで構築するよりははるかに資金的な負担も少なく、エンジニアの数も確保でき、入手までの時間も短縮できるだろう。
面白いというか興味深いのは、QualcommとNordicの立ち位置である。Qualcommは車載向け製品の提供を行っているが、現在は車載用モデムとInfotainment Cluster、それとADAS分野のみで、InfineonやNXPの提供するECUとはちょっと目的が違っている。まぁただ両社ともにECUのみならずDriving Cluster向けの製品も手掛けており、ここはQualcommのマーケットとかぶる部分でもあるので、まずはInfotainment向けという事かもしれないが。
もっと不思議なのがNordicで、そもそも同社は現在車載向けに製品を提供していないし、2022年のAnnual Reportを見ても自動車関連の売上は0である(図1)。
今後新規にこの分野に参入するつもりがあるのか?というと、筆者的にはむしろAutomotive向けの機能安全に対応したプロセッサコアを、同社の売上の1/4を占めるIndustrial向けに投入するつもりなのではないかという気もするが、それ以前に取りあえずRISC-Vへの対応を水面下で進めるに当たり、自社開発より安価にノウハウも手に入るし、将来はIoTやMobile向けの製品も開発する予定なので、その当たりまで見込んでということかもしれない。もちろん自動車業界に参入するつもりがあって、その布石の可能性もなくはないが、今から新規参入するのはさすがにちょっと遅すぎる気がする。
自動車向けということで言えば、TIとかSTMicroelectronicsが今回の動きに絡んでないのもちょっと不気味ではある。実を言うと今回の5社のうちBosch/Infineon/NXPは他にも、TSMCと組んで半導体製造工場の設立を2023年8月に発表しており、STMicroelectronicsはある意味独自路線を取っている格好だ。またTIも車載向けにHerculesシリーズプロセッサを提供しているが、今のところRISC-Vへの対応に関しては何も明らかにしていない。このあたりの会社が、今後この新会社に合流するのか、それとも独自路線を貫くのか、そのあたりが気になる部分だ。
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これを読めばここ1カ月のエレクトロニクス/組み込み業界の動きが分かる連載。注目すべき市場動向と注目すべき製品を取り上げます。
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