大原雄介のエレ・組み込みプレイバック
日本の半導体戦略は“絵に描いた餅”(3/3 ページ)
さて翻って昨今の状況を考える。1987年当時に1.5μmプロセスの工場を立ち上げるのに300億円ほどかかっている訳である。その後、プロセスの微細化につれ、工場の建設費用を含む投資額はどんどん増えていく。その投資額に耐えきれない国内メーカーはどんどん撤退していった。もちろんこれは国内だけの話ではない。図6は2013年に行われたGlobalfoundriesの記者会見でのスライドだが、1990年台には40社以上あった「自社でFoundry Serviceを行っている企業」は世界中でどんどん減っており、ついに昨今先端プロセスの量産を行っているのはTSMCとSamsungの2社で、これにIntelが何とか追い付こうとしている、という状況に陥っている。
そのIntelも、14/10nm(TSMCで言うところの10/7nmプロセス)では後塵を拝しているものの、22nm世代まではTSMCをリードしており、ところがここ10年足らずで一気に後れを取る事になった。それを奪回すべく、(図3にあるように)2兆円を投じる。日本は?というと、富士通が40nm、NEC(というか、ルネサスエレクトロニクス)が28nmどまりであり、どちらも現在はMature Processと称されているあたり。ここから最先端にたどり着くまでにはFinFETの実用化ややArF+マルチパターニング/EUV露光の手法の確立、さらにはGAAあたりの技術開発まで、いくつもの壁が立ちはだかっている。IntelはFinFETまでは終わっており、SAQPのマルチパターニングとEUVでちょっと遅れを取っていたのをばん回するのに2兆円を掛けようとしている。ということはFinFET製法の確立からスタートするとなると、3兆円とかそんなもんでは効かない様に思われる。10兆円のオーダーだろうか?
これを迅速かつ相対的に低コストで立ち上げる一番効率のよいやり方は、中国同様に「そうした技術に長けたエンジニアを大量に引き抜く」方法だ。もっともそこまでやっても中国のSMICはなかなか7nmの量産には至らないし、HSMCに至っては壮大な詐欺が疑われているありさまだが、金にモノを言わせて人を確保するとなるとこうした状況が生まれるのはある程度仕方ないだろう。建物や設備(最先端のEUVステッパーの価格は1台2億ドルほどとされる)にもコストが掛かるが、それを使いこなすエンジニアの育成にもやはり金と時間が掛かる。これを短縮するには、その分野に習熟した(≒TSMCとかSamsungで先端プロセス開発に従事している)エンジニアを札束で殴り倒す勝負で、中国と真っ向勝負しなければならない。ここまで金を掛ける覚悟が経済産業省というか日本政府にあるのなら、あるいは次世代ロジックにおける製造開発技術を国内に残す事は不可能ではないだろう。
20億円とか100億円という金額は、その意味では「お話にならない」。そもそも昨今の先端プロセスの場合、NRE(Non-recurring engineering:初期エンジニアリング)コストが洒落にならない。例えば40nm世代のLSIを設計・検証するコストはおおむね3800万ドルほど、これが28nmで5100万ドル、16nmで1億ドル、7nmでは3億ドル、5nmでは5億4000万ドルほどに高騰する、という試算もあるほどだ。先の(6)だと、16nmプロセスでチップを1つ試作するだけで予算が尽きる格好である。
正直言えば、最近のAIチップを開発するベンチャー企業の方が、余程資金を集めている。例えばウェハ1枚のサイズのAIチップでおなじみ(?)のCerebras Systemsは2017年までに1億1200万ドルを集めているし、やはりAIベンチャーのGroqなど、既に3億ドルを集めている。AIのベンチャーですらこれだけの金額が集まる、というかこの程度は集めないと製品開発できないという昨今の状況をかんがみると、たかだか99.8億円で「エッジ側で動作する超低消費電力コンピューティグや、高速化と低消費電力化を両立する次世代コンピューティグなどの実現に向けて、ハードとソフトの一体的な技術開発を実施し、ポストムーア時代におけるわが国情報産業の競争力強化 、再興を目指します」という目標が相当にハードルが高いというか、普通に考えれば「無理だろ」としか言いようがないほど困難なのは容易に見当が付く。
幸い、半導体装置産業とか半導体材料(ウェハなど)で、まだ日本が競争優位性を保っている分野はある。予算が厳しいのであれば、むしろそうした強みのある分野に集中投資すべきではないのか? というのが筆者の考えである。が、こういう戦略が出たとなると多分そういう風にはならないだろう。そしてこの程度の金額では何も生み出せずに、取りあえず形だけ何か生み出したことになって、150億円あまりがどっかに消えて終わりであろう。もったいない話である。
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これを読めばここ1カ月のエレクトロニクス/組み込み業界の動きが分かる連載。注目すべき市場動向と注目すべき製品を取り上げます。
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