大原雄介のエレ・組み込みプレイバック
日本の半導体戦略は“絵に描いた餅”(2/3 ページ)
では、この「半導体戦略」はどうか? という話だが、多分絵に描いた餅に終わるだろうというのが筆者の見解である。理由は「予算」である。75ページから実際の予算の説明があるのだが、
(1) ポスト5G情報通信システム基盤強化研究開発事業 2000億円
(2) グリーンイノベション基金事業 2兆円
(3) カーボンニュートラルに向けた投資促進税制の創設 税控除のみ
(4) サプライチェーン対策のための国内投資促進事業費補助金 2108億円
(5) AIチップ開発加速のイノベーション推進事業 20.5億円
(6) 高効率・高速処理を可能とする AIチップ・次世代コンピューティングの技術開発事業 99.8億円
(7) 省エネレクトロニスの製造基盤強化に向けた技術開発事業 20.5億円
(8) 超低消費電力型光エレクトロニスの実装に向けた技術開発事業 15億円
といった項目が挙げられている。ただそもそも(1)~(4)は半導体産業の建て直しに何の関係もない。ついでに言えば、この(1)~(4)はいずれも令和1~2年に予算化されたもので、今回の半導体戦略が立てられる以前に決まっていた内容である。なので、(5)~(8)が今回半導体戦略に合わせて新規に計上された予算という事になるわけだが、その総額はいきなり155.8億円まで減ることになる。これを例えば図2の各国の数字と見比べてほしい。直近の話(図3)と比較しても桁が1個足りない。
そもそも日本で半導体産業が半ば壊滅したのは、もちろん図3に掲げられた要因があるのは間違いないが、その一方で当時の政府がそうした半導体産業に何も手を出さなかった事も大きな要因である。ちょっとTSMCの話をすると、TSMCはもともと台湾のITRI(工業技術研究院)から1987年2月にスピンアウトした企業である。実を言えば、同じ台湾のUMCもやはりIRTIからのスピンオフ企業であり、こちらは1980年とTSMC以前に立ち上がっている。にもかかわらずUMCはTSMCの後塵を拝している現状を招いた(というか、TSMCがUMCを乗り越えて成長した)最大の要因は、当時のITRI院長にして、TSMCの創業者となった張忠謀(Morris Chang)氏のビジョンというか先見の明と指導力に拠るところが大きいと筆者は思うのだが、これは余談なので置いておくとして。
ちょっと当時の話をすると、もともと台湾の経済部(日本で言うところの現在の経済産業省)は1983年からの5年間、「電子工業研究発展第3期計画」を推進していた。これは1.25μmプロセスのVLSIを製造するための技術開発であり、総経費は29億8000万NTDであった。当時の換算レートを調べると、1985年ごろが大体1TWD=6円くらいだったので、おおよそ180億円程度。ただし1983~1988年当時での180億円である。この第3期計画の一環で建設していた6inchのウェハ試験工場が1986年ごろにほぼ完成するが、こうした技術や設備をそのまま民間に転用することで、VLSIの製造能力を民間が獲得できるというのがTSMCの基本的なアイデアであり、実際そうした形でスピンオフが行われた。ただ第3期計画はあくまでも技術開発の計画であって、量産設備などはもちろん計画のうちに含まれていない。そこでスピンオフしてファウンダリを構成するためには、量産設備は別途用意する必要がある。このための経費は、おおよそ100億NTDに達すると見込まれた。
この出資にあたり、政府は過半数ではない49%の株を保有、残りは民間からの出資を募った。最終的に創業資金の100億NTDの半分は融資で賄い55億NTDを株式資本とし、うち48.3%を行政院開発基金から出資。27.5%はオランダのフィリップス、残る24.2%を台湾国内企業が出資した格好になった。つまりTSMCの立ち上げにあたり、行政は(第3期計画の分も合わせると)56億4千万NTDほど出資した格好になる。1988年当時にこれだけの金を突っ込む政府の担当者の胆力も大したものだ、という話ではあるのだが。
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