組み込みエンジニアの現場力養成ドリル(31)
岸和田ハリケーンズ vs ボストン・レッドソックス ―― CMMIの落とし穴(その2)(2/3 ページ)
で、どうする?
野球が飛び抜けて上手いチームがあるなら、実際に、プレーしてもらい、岸和田ハリケーズか、ボストン・レッドソックスかを自分の目で見極めましょう。ソフトウェアのオフショア開発でも同じです。
例えば、インドの大手ソフトウェア開発会社から、豪華なパンフレットを見せられ、「当社はCMMIのレベル5を取得している世界最先端のソフトウェア開発組織で、安価でソフトウェアを開発できます。ウチに外注しませんか?」と流行な英語で言われると、よさそうだと思いますよね。特に、英語に異常なコンプレックスがある日本のエンジニアは、相手がすらすらと英語で技術的なプレゼンテーションをすると、「すごいなぁ」とのまれてしまいます。プレゼンテーション能力とソフトウェアの開発力は別物です。
いい感じだと思ったら、実際の開発物を見せてもらったり、生産性や品質の統計情報を提示してもらたりしましょう。相手がレベル5でも、形式だけ開発プロセスを備えている場合があります。これは問題外ですが、よくあるのは、レベル5できちんと開発プロセスを備え、エンジニアも一生懸命に開発していても、上手くいかない場合です。
相手側は、指導者も選手も真面目に野球に取り込んでいるけれど「岸和田ハリケーンズ」のレベルで、日本側は「ボストン・レッドソックス」を期待しているという「お互いの想いがズレている」ケースが少なくありません(というより、圧倒的に多いのがこのケースです)。お見合い写真と経歴書を見ただけで、本人に会わずに「この人は理想の伴侶だ」とお互いが熱くなるようなものです。「レベル5の会社にオフショア開発を発注したのに、バグだらけの製品を納入してきた」という悲劇は、本人に会うことなく、お見合い写真と仲人口だけで結婚に踏み切ったようなもの。これでは、ギャンブルです。「急いで結婚、ゆっくり後悔」にならないよう、お相手の人柄を見極めましょう。オフショア開発では、過去の成果物や統計情報を見せてもらえばいいのです。
また、外注する場合、ソフトウェア開発だけでなく、品質管理も同時に発注すると効果的です。以下、詳しく解説します。
開発成果物を見せてもらう
相手が岸和田ハリケーズか、ボストン・レッドソックスかを見るため、過去の成果物を閲覧させてもらいましょう。まずは、相手側と守秘義務契約を結び、相手が作った要求仕様書、設計書、ソースコード、テスト項目、デバッグ管理表、バグ管理表を2、3のプロジェクト分、見せてもらいます。開発した実物を見れば、リトルリーグかメジャーリーグか、一目瞭然。明確に分かります。
相手が、実際の成果物を見せたくないのであれば、内容に自信がないか、そもそもキチンとした成果物がないかのどちらかです。「今回はご縁がありませんでした」でお引き取り願いましょう。
品質管理、生産性管理、見積もりのデータを見せてもらう
これも、相手側と守秘義務契約を結び、ソフトウェア開発での過去5年分の品質管理と生産性の統計情報を見せてもらいましょう。このデータが出てこないならば、「プロセスを計測している」というCMMIレベル4の必須条件を満たしていないことになります。
提示してもらうデータとして、例えば、以下があります。
- 品質管理のデータ
- 要求仕様フェーズ、設計フェーズ、コーディングフェーズ、デバッグフェーズ、保守フェーズで検出したバグの数、内容、重要度、修正状況(修正した/次回へ繰り越し/修正しない)
- 時系列で、テスト項目をどのように消化し、バグがどのように発生して解決したかを示す品質制御系のグラフ
- 生産性のデータ
- どんな分野のどんな規模のソフトウェアを何人月で開発したかのデータ
- 見積もりのデータ
- 見積もりの方法と予測値、実際の実測値の例を過去5年分
上記の3つを見れば、岸和田ハリケーンズか、ボストン・レッドソックスか一発で分かります。また、インド側にオフショア開発を発注したところ、大きく納期に遅れたり、実装漏れやバグだらけのソフトウェアを出してきたりした場合、「オフショア契約を結ぶ前に、サンプルとして見せてもらったものと、今回の開発はあまりに違い過ぎる」と正しく、厳しく文句を言えます。
品質管理も発注する
開発を発注したら、品質管理も同時に発注するといいでしょう。10%増程度のコストでやってもらえるはずです。仕様書をもとに、インド側でテスト項目を設計してもらい、そのテスト項目の過不足を日本側でチェックして、最終版を作ります。最終版のテスト項目は、要求仕様書をきちんと網羅しているはずです。
テスト項目は、「具体的な値で表した仕様書」です。テスト項目を全件パスすれば、仕様の実装漏れはありませんし、テスト項目に相当する品質も確保できます。テスト項目の最終版を元に、インド側の開発会社の品質保証部門で開発部門の品質制御を請け負ってもらいましょう。悪い言い方をすれば、「自分で自分の首を絞める」方式です。
テスト項目の消化状況、品質の状況、バグを検出した場合の類似項目の見直しなど、全て、外注先の品質保証部門で実施してもらい、日本側は毎日、レポートを受け取ります。全部のテスト項目にパスしないと開発費を支払わないようにすれば、「作り逃げ」はできません。
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組み込みエンジニアの現場力養成ドリル
このコラムでは、組み込みエンジニアが日々の開発で実際に遭遇する「小さなトラブルを」取り上げ、演習形式で解説します。
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