組み込みエンジニアの現場力養成ドリル(5)
世界最高のIQを持つ女性 vs 数学者軍団(2/2 ページ)
解答編
マリリンの答えは、「ドアを替えるべきです。ドアを替えると、高級車が当たる確率が2倍(3分の1から3分の2へ上がる)になります。直感で考えると、替えても、替えなくても同じ50%と思ってしまいますが、替える方が、高級車が当たる確率が上がるのです」というものでした。
【訂正とお詫び】掲載当初、『高級車が当たる確率が2倍(3分の1から2分の1へ上がる)になります』と記載しましたが、正しくは『高級車が当たる確率が2倍(3分の1から3分の2へ上がる)になります』でした。お詫びして訂正いたします(2020年4月21日午後4時/編集部)
1990年9月9日以降の出来事
マリリンがこのように回答すると、1万通もの投書が届きました(1990年は東西ドイツが統一された年で、映画『プリティー・ウーマン』が大ヒットした年です。電子メールは一般的ではなく、寄せられた投書は紙の手紙が中心です)。
投書やコメントの92%が「マリリンは間違っている。ドアを替えても、高級車が当たる確率は50%で変わらない」との反論でした(直感的にはそう思いますね)。反論者の中には、博士号の所有者や統計・数学の研究者が数百人もいたのです。
1990年12月2日、マリリンは大学の研究者たちから届いた投書内容をParadeの紙面に載せ、「ドアを替えるべき」である根拠を別のアプローチで説明したのですが、それでも信じない人が同じ内容の投書をしてきました。2回目のコラムが火に油を注いだ形になり(今で言う「炎上」ですね)、以前にも増して編集部の電話は鳴り続け、FAXはあっという間に紙が切れたのです。マリリンの解答は社会現象となり、『ニューヨーク・タイムズ』が一面で特集記事として取り上げました。
1991年2月17日にマリリンは再びこの問題を取り上げ、新たに届いた研究者からの手紙を実名入りで掲載し、さらに別の説明を展開したのです。さすがに3回目ともなると、コンピュータでシミュレーションをした人も数百人いて、その中の97%が「マリリンの回答は正しい」と認めたそうです(当時、PCはまだ一般的ではありません。ラップトップとはいえ、ワインが6本入った木箱ほど大きくて重かったのを覚えています)。
1回目のコラムの直後、全投書の中で8%しか「マリリンは正しい」と書いてきませんでしたが、3回目では56%もマリリンを支持しました。数学や統計の研究者に限定すると、1回目は35%しか信じませんでしたが、さすがに3回目は71%がマリリンを支持しました。
3回目以降は沈静化しましたが、それでも「あなたは女だからそんなことを言うんだ」と差別的な投書も届いたそうです(この投書も実名入りで公開されています)。この「3枚のドア」問題は、ショーの司会者の名前を冠して「モンティ・ホール問題」として有名になりました。知っている人も多いと思います。
エンジニアとしてどうすべきか
マリリンの解答は直感的な確率と実際の確率が違うので、大きな話題となりました。そこで、ちょっ違う考え方をしてみましょう。
ドアが1000枚あると仮定します。そのうちの1つの後ろに高級車があり、残り999枚の後ろにはヤギがいるとして自分が1枚を選びます。この段階で、高級車を選ぶ確率は1000分の1ですね。そして司会者が残りの999枚の中で1枚を残して998枚のドアを開け、全てにヤギがいることを見せるとすると、自分が選んだドアではなく、残り1枚の後ろに高級車がある確率は1000分の999になります。
面白いのは、この瞬間にそんな経緯を知らない人が現れたとすると、「998枚の後ろにはヤギがいた」ことを知らないので、2枚のドアから高級車を当てる確率は2分の1になることです。デシジョンテーブルなどいろいろなやり方でも、「ドアを替える方が当たりの確率は上がる」ことを計算できますね。
1990年はUNIXが一般に認知されはじめた頃で、私にはつい昨日のように思えます。そんな「最近のこと」なのに、なぜ、数学者や統計学者が「感覚的な確率」を信じて、「当たりの確率が上がる」ことを信じなかったか、私にはとても不思議です。
工学系の人間なら「いいか悪いかよく分からない時は試してみよう」と思い、まずシミュレーションをするはずです。特に、ソフトウェア開発に従事しているエンジニアであれば、プロトタイピング技法を使い、気になる部分が正しいかチェックするはずです。モンテカルロ法のような大掛かりなものまでいかなくても、サイコロを振って乱数を作り、100回ほど試してみればいいのです。頭の中だけで解決しようとすると、堂々巡りをして、誤解したりしますね。
おわりに
「ソフトウェア開発をしている部屋の隅に神棚を設けて、毎朝『バグのないプログラムが早く作れますように』とお祈りすると、効果がある」との話を聞いたとします。
科学者や研究者であっても工学の心得がなければ、「そんなのは文字通りの『神頼み』だ。理論的、科学的に効果を証明できない限り、適用すべきではない」と斬り捨てるでしょうが、工学系では「効果を得られる可能性があるなら、まずはやってみよう。理論的な証明や説明は、誰かが後でやってくれる」と考えます。これは「科学」と「工学」の大きな違いでしょう。
組み込み系のソフトウェア開発では、技術的な選択をしなければならない場合が少なくありません。そんな時は、じっと考えるより、「実際に試してみる」ことが正解への近道になることがあります。まず、やりましょう。
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組み込みエンジニアの現場力養成ドリル
このコラムでは、組み込みエンジニアが日々の開発で実際に遭遇する「小さなトラブルを」取り上げ、演習形式で解説します。
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