組み込みエンジニアの現場力養成ドリル(4)
図書館「蔵書分類」のバグ(2/2 ページ)
図書分類法のバグ
これまでの問題は、「仕様書のバグ」が連続していたので、別のテーマにする予定でしたが、「将棋の名人位挑戦規定のバグ」に恥ずかしいたバグがあったことから、もう1回、「仕様書のバグ」を取り上げます。
問題編(制限時間30分)
図書館で書籍を借りると、本の背表紙にある分類番号に気が付く方は多いでしょう。日本の大部分の図書館で使われている分類法が「日本十進分類法」です。
書籍を大分類として10の分野に分け、さらに中分類、小分類も同様に分けて、数字を振っています。コンピュータやソフトウェアの情報処理系の本は、「新参者の学問」であるため、007(情報学、情報科学)に336(経営管理)、418(計算法)、547(通信工学・電気通信)、548(情報工学)とあちこちにばらまかれていて、図書館の書架を行ったり来たりして不便な思いをしたエンジニアが多いと思います。
それはそれとして、10の大分類と、コンピュータ系が関係する400台(自然科学)、500台(技術)、600台(産業)の中分類を以下に挙げました。この分類(データ構造?)のバグを見つけてください。「バグ」というより、「少しヘンだな」程度ですが、ソフトウェアの仕様書として考えると不自然に思えるところがありますので、見つけて指摘してください。
| 日本十進分類法による分類(第10版準拠、一部略) | |
|---|---|
| 大分類 | |
| 000 | 総記 |
| 100 | 哲学 |
| 200 | 歴史 |
| 300 | 社会科学 |
| 400 | 自然科学 |
| 500 | 技術・工学 |
| 600 | 産業 |
| 700 | 芸術・美術 |
| 800 | 言語 |
| 900 | 文学 |
| 中分類(「000 総記」「100 哲学・宗教」「200 歴史・地理」「300 社会科学」は省略) | |
| 400 | 自然科学 |
| 410 | 数学 |
| 420 | 物理学 |
| 430 | 化学 |
| 440 | 天文学・宇宙科学 |
| 450 | 地球科学・地学 |
| 460 | 生物科学・一般生物学 |
| 470 | 植物学 |
| 480 | 動物学 |
| 490 | 医学 |
| 500 | 技術・工学 |
| 510 | 建設工学・土木工事 |
| 520 | 建築学 |
| 530 | 機械工学 |
| 540 | 電気工学 |
| 550 | 海洋工学・船舶工学 |
| 560 | 金属工学・鉱山工学 |
| 570 | 化学工業 |
| 580 | 製造工業 |
| 590 | 家政学・生活科学 |
| 600 | 産業 |
| 610 | 農業 |
| 620 | 園芸 |
| 630 | 蚕糸業 |
| 640 | 畜産業 |
| 650 | 林業 |
| 660 | 水産業 |
| 670 | 商業 |
| 680 | 運輸・交通 |
| 690 | 通信事業 |
| *「700 芸術」「800 言語」「900 文学」は省略 | |
繰り返しますが「図書館学的な正しさ」ではなく、「ソフトウェアエンジニアリング的な不自然さ」を探してもらう問題なので、問題自体、図書館学に詳しい方にとってはやや違和感を覚えるかもしれません。「日本十進分類法を元にプログラムを作成する、組み込みエンジニアの気持ち」になって考えてみてください。
解答編
その1:「400 自然科学」の中分類の「粒度」が、以下のようにそろっていません。
(1) 日本十進分類法を「ソフトウェアのモジュール階層」として考えると、「470 植物学」と「480 動物学」は「460 生物科学・一般生物学」の下に属する「サブルーティン」であってもおかしくありません。ですが、上位と同じレベルになっています。
(2) 「490 医学」は「自然科学」の下ではなく独立した大分類であってもおかしくありません。歴史的な経緯もあるでしょうが、自然科学に含まれる状態となっています。
その2: 実際には10分類なのに9分類に見えます。
一例として「400 自然科学」を挙げると、「401 科学理論、化学哲学」「402 科学史・事情」のように、その分野の歴史、総論、総記を「401」から「409」に入れています。その構造が表からは見えず、大分類が中分類を兼ねている形式になっています(日本十進分類法の参考資料の大部分がこうなっていますので、図書館業界では当たり前なのでしょうが、ソフトウェアエンジニアリング的には誤解を招きますし、バグの素になると考えられます)。以下のようにすると、分類の上下関係がはっきり分かると思います。
「400 自然科学」に関する私的変更案
| ●変更前 | |
|---|---|
| 400 | 自然科学 |
| 410 | 数学 |
| 420 | 物理学 |
| ●変更案 | |
| 400 | 自然科学総論 |
| 410 | 数学 |
| 420 | 物理学 |
日本十進分類法では自然科学を「数学」「物理学」「化学」「天文学・宇宙科学」「地球科学・地学」「生物科学・一般生物学」に分類していますが、これでは6分野にしかなりません。ですが、「生物科学」の下位でもおかしくない「植物学」と「動物学」を昇格させ、さらに、別の大分類でもおかしくない「医学」を中分類に入れて9分野(実際には10分野)としました(この分類法では「0」に特別な意味があるのです)。大学の学部で「理学部」の下に「医学科」があるところはないでしょう。分類に歴史的な経緯があるとはいえ、違和感を覚える人もいるのではないでしょうか。
この分類は日本十進分類法の成立時から続く大きなテーマであり、常に見直しが行われています。詳細は割愛しますが、2014年に刊行された最新の10版に至るまで常に広範な議論と見直しが行われ、10版での新設項目は288件、削除項目数は55件に及んでいます。この数字は多いように見えますが、過去に行われた改訂の中では少ない方です。
日本十進分類法の原形である「日本十進分類法:和漢洋書共用分類表及索引」が誕生したのは1928年(昭和4年)のことで、コンピュータは影も形もない時代です。国立国会図書館のWebサイトに掲載されている「日本十進分類法の歴史」には「一般図書館向けには最も分かりやすい(中略)十進記号法が適しているとして十進分類法を採用」とあります。
0から9で分類を行う十進分類法を採用したことと、データ構造としてデータベースでいう「階層型データベース」を採用したため、上から下に向かって細かくなる木構造となったことが混乱の原因でしょう。組み込みエンジニアになじみ深い「情報処理」という学問の要素、例えば、「ハードウェア」「ソフトウェア」「通信」「離散数学」は別々の枝になっており、分類法を元にした検索は面倒になってしまっています。
では、どう分類すればいいか? これは難問ですね。「混乱を招かないように、現在の分類を維持したい。でも、新しい学問や分野を簡単に追加できる」分類法が理想ですが、分類するだけではなく図書館における使いやすさ(探しやすさ)も加味しなくてはなりません。データベースとしての利用だけならば、データ構造に依存しない「リレーショナル型」にすれば、なんとかなりそうな気がしますが、難しい問題ですね。
おわりに
既に存在していて、日本中で実運用されている「分類の仕様」にも、あら探しをするとバグ(というかデータベースとして利用する際の不具合とでもいいましょうか)があります。「図書分類のバグ(図書館の関係者にはバグではないのでしょう)」は、図書館員の労力と努力で吸収し、図書館利用者の混乱を防いでいるのです。
それにしても、図書館に行くたびに素晴らしいと思うのは、「人間の内面、外面、生産物、また、地球上の物質、現象だけでなく、銀河系のあらゆるものの書籍、森羅万象の全てを分類している」ことです。図書館には、銀河系よりはるかに大きい宇宙があるのです。これを100年近く前に分類した勇気と努力に敬意を表します。
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