TechFactory通信 編集後記
攻守を入れ替えたNVIDIAとQualcomm
Nintendo Switchに「Tegra」が採用されたNVIDIAですが、同社SoCはスマートフォンへの搭載を目指しながらも方法転換した過去を持ちます。その方向転換によって攻守が入れ替わった存在がQualcommです。
PCやワークステーションの世界ではグラフィックチップ(GPU)「GeForce」シリーズなどで不動の地位を築いているNVIDIAですが、限られたリソースへの最適化が求められる組み込みの世界でも同様に圧倒的な実績を残しているかというと答えは「No」でしょう。
NVIDIAの組み込み向け製品としては、CPUにARMコア、グラフィックスに同社製品を実装したSoC「Tegra」があり、任天堂から発表された新ゲーム機「Nintendo Switch」にはカスタマイズされたTegraが搭載されています。メジャーな家庭用ゲーム機にNVIDIA製品が採用されるのは久しぶりのことです(PS3には同社GPUをカスタマイズしたGPUが利用されています)。
このTegraはGPUベンダーが手掛けたSoCという出自もあって低消費電力ながらグラフィック性能が高いという特長を持ち、登場時は「高いマルチメディア性能を求められるモバイル機器」つまりスマートフォンをターゲットにしていました。特に第3世代製品のTegra 3は電力消費を最適化する“5つ目のコア”も実装する「4-PLUS-1」構成としたことで、多くのスマートフォンやタブレットに採用されました。
このTegra 3が出荷開始された2011年秋はちょうどAndroidスマートフォンとタブレットの高性能化が急激に進んでいた時期であり、「Nexus 7」や「Xperia Tablet S」「Optimus 4X」「ARROWS V F-04E」「HTC One X」などがTegra 3を採用、現在に通じる高いマルチメディア性能、LTEなど高速ネットワークに適合した処理能力などを獲得しました。
このようにスマートフォン向けSoCとして一定の地位を確保したTegraですが、NVIDAはTegraをその方向で進化させることを選択しませんでした。
ナンバリングされたTegraシリーズは4までとなり、2014年に登場した「Tegra K1」からは、自動運転車やドローン、ロボットなど「センサーとしてカメラを搭載する機器」をそのターゲットに絞ったのです。
急激な変化に見えるかもしれませんが、組み込み開発の視点からすればそうではありません。あまり知られていないかもしれませんが、NVIDIAの車載向け事業はTegraの製品化より前から行われているからです。当初はカーナビなどインフォテイメントの領域にとどまっていましたが、車載カメラで撮影した画像を予防安全システムに用いるといった使い方が現実味を帯びるに従い、画像処理に強くGPGPU技術に秀でたNVIDIA製品は汎用の組み込み機器向けとしても注目を浴びることになったのです。
Tegraだけを見ているとスマートデバイス向けSoCから組み込み機器向けSoCへ方向転換したように見えますが、NVIDIAとしてはGPU性能を生かせる領域に製品を投入するという方針にブレが生じていないことが分かります。もっとも、その背景には通信技術に強みを持ち「Snapdragon」を有するQualcommとの競争は不利と判断したこと、GPGPUによって高い並列処理能力を発揮する自社製品の強みを生かせる機器がもはやスマートフォンではなくなったといった理由も存在すると思われます。
いずれにしてもTegraは「モバイル機器向けSoC」ではなく、「並列処理に優れた組み込みプラットフォーム“JETSON”の中核となるSoC」へと立ち位置を変えました。そして奇遇にもモバイル機器向けSoCの領域で強大なライバルであったQualcommは、産業機器やIoTデバイスを対象にした組み込み機器向けのSnapdragon 410E/600Eを本格展開する体制に入りました。
モバイル機器向けSoCではQualcommが先行しNVIDIAが追撃する形でしたが、組み込みの領域において、それは入れ替わる格好になったのです。現在、両社の展開する製品を見る限り直接競合することはなさそうですが、わずか数年で攻守を入れ替えることになるとは、想像もできなかった出来事と言えます。
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