カーボンナノチューブとゴムで熱界面材料を開発:日本ゼオン シート系熱界面材料
日本ゼオンは2016年11月10日、スーパーグロース法を用いたカーボンナノチューブ「SGCNT」とゴムを複合したシート系の熱界面材料(TIM)の開発に成功したと発表した。
サーバやパワーデバイスの熱問題を解決へ
日本ゼオンは2016年11月10日、スーパーグロース(SG)法を用いたカーボンナノチューブとゴムを複合したシート系の熱界面材料(TIM)の開発に成功したと発表した。現行のグリース系TIMより優れた熱抵抗値、高い作業性と信頼性を実現し、サーバやパワーデバイスの課題とされている熱問題を解決する部材での利用が期待されるという。
現在、主要顧客にサンプルを提供している段階である。日本ゼオンの荒川公平氏は、「ゼオン化成の茨城工場敷地内に数億円を投じて建設中のパイロットプラントが2016年12月5日に完成する。2017年4月末までに設備立ち上げと安定生産技術を確立したい」と語った。
カーボンナノチューブは1991年に飯島澄男氏が発見後、軽量で高い熱伝導性、強度、電気伝導性といった優れた特性を持つことから、技術開発が進められてきた。産業技術総合研究所(産総研)の畠賢治氏がSG法による単層CNT(SGCNT)を2004年に発見。その後、量産に向けた技術開発が進められ、2015年11月に日本ゼオンがSGCNTの量産工場を立ち上げ本格的な生産が始まった状況だ。
熱伝導率と硬度を両立
SGCNTを用いたTIMの開発は、産総研と単層CNT融合新材料研究開発機構(TASC)が開発した事例がこれまでにある。ゴムに炭素繊維と少量のSGCNTを添加したTIMで、面方向には高い熱伝導率を達成したが、厚み方向の熱伝導率が低く実用化が難しかった。
日本ゼオンは、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の助成を受けて、独自の製造技術を用いて、SGCNTとフッ素系のゴム、黒鉛を組み合わせた。これにより、厚み方向に高い熱伝導率を持ち、硬度が低く密着するTIMの開発に成功した。
助成前の厚み方向熱伝導率は2W/m・K、アスカーC硬度は88だったのに対して、厚み方向熱伝導率38W/m・K、アスカーC硬度59と2つの性能を両立できたという。荒川氏は、「ゴムより柔らかく、鉄より熱伝導性が良いシート系に熱界面材料」と語る。
日本ゼオンによると、サーバやパワーデバイスに求められる熱抵抗値は0.2℃/W以下である。今回開発したTIMは、0.2℃/W以下を実現するために求められる厚み方向熱伝導率とアスカーC硬度を達成。0.1MPa以下の低圧力下でも良好な密着性を実現し、グリース系TIMの0.10℃/Wより優れた0.05℃/W以下という熱抵抗を実現したとしている。ちなみに、現在あるシート系のTIMの95%以上は、0.4℃/W以上だそうだ。
また、グリース系TIMは塗りにくく液垂れもあるため作業性に課題があったが、今回日本ゼオンが発表したのは、シート系TIMのため「貼るだけ」で済むのも特長だ。
開発したTIMの価格見通しについて日本ゼオンは、「現行のTIMで性能が良い製品の価格は1平方メートル当たり8〜10万円である。当社のTIMも、そのあたりのコストを実現するめどが立っている」と語った。
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