宮田健の「セキュリティの道も一歩から」(91)
製造業への「侵入」は簡単であり難しい?(2/2 ページ)
境界防御に限界はあるが、それでもまだ有効な製造業では
個人的には、ITの世界では境界防御は限界を迎えていますが、それも時と場合によってはまだまだ有効だと思っています。その数少ないエリアの一つは、製造業だとも思っています。
工場は、まさに理想的な「境界防御」を実践した場所です。ネットワークも分離されているのが当たり前ですし、工場のエリアに入ること自体、しっかりとチェックをし、不審なものが中に簡単には入れなくなっているでしょう。だからこそ、サポートが切れてしまったOSがいまでも現役だったりするのかもしれません。IT的には許されていないことであっても、環境が整備されていることが功を奏していると思っています。
とはいえ、いまではその理想的な境界防御も、なし崩し的になってしまう可能性があります。ITの世界においては、新型コロナウイルスによる在宅勤務が急務となり、急いで「VPN」という仕組みを取り入れた企業が少なくありません。これは自宅でもオフィスと変わらず仕事ができる仕組みではありますが、それは「境界の中に裏口を作って侵入できる」ものでもあります。サイバー攻撃者はそれを見逃さず、VPNを狙い、企業内にやすやすと侵入してきました。
工場にはVPNなんて設置しなかった、と思っているかもしれませんが、実は見えていないだけの可能性があります。工場のメンテナンスもリモートで行わなければならなくなった結果、機器のメンテナンス事業者によりVPNが設置され、鉄壁だった工場の守りにいつの間にか裏口が作られている可能性もあります。
加えて、工場内の機器のアップデートや、マルウェア検知のためのパターンファイルのアップデートなどで、「USBメモリ」を用いることは少なくありません。それも、ある意味鉄壁の守りの中に入り込む、トロイの木馬的な存在になり得ます。
さらに、工場もDXやスマートファクトリーの波で、境界防御を乗り越え、オフィスのITと工場のOTがつながる時代になっています。こうなると、もはや本気で新しい仕組みが必要となりますので、DX予算にはセキュリティ対策が含まれるようになるはずです。その手前の段階では、“超頑張れば”、ITではなし崩しになってしまっていた境界防御を、工場という場で生かし続けることができるはずです。
境界防御を“超頑張る”には?
そのためには、まずなし崩しにならぬよう、工場内において外部とのIT的な接点となり得る、USBメモリでのメンテナンスやリモートメンテナンスの口の有無、そしてネットワークコネクタの空きがないかなど、現状を把握することが重要かと思います。工場の境界防御を安全にするために、特に製造業に向けたソリューションが多数存在しています。ただ、そういったソリューションをむやみに購入しても意味はなく、その前にまず自分自身の姿を把握し、どこを守るべきかを知ってからの方が有効でしょう。
ITの世界では、境界防御を捨て、「ゼロトラスト」を目指しつつあります。究極的には、業種を問わずこのゼロトラストの実現こそがゴールであり、スタートになると私は考えていますが、ITの世界でもその実現が難しく、段階を踏んで適用を進めているところです。特に工場においては境界防御がまだまだ使えるものだと思っていますので、まずは今の状況を把握し、ソリューションの力も得つつ、対策を"超頑張る"しかないと思っています。
ペネトレーションテスターの“侵入方法”を踏まえると、工場のセキュリティはそれなりに有効ではあっても、完璧ではありません。工場であっても時間をかけさえすれば、確実に侵入できてしまうでしょう。しかし、これまで行ってきたであろう安全対策をしっかり行うことで、IT的なセキュリティにおいてもより安全な仕組みを作れるはずだと思っています。普段入らないところに知らない人がいたり、普段と異なる作業があったとしたら、すぐに声をかける。整理整頓を心掛け、不正の入り込む余地を減らす――それをITでも展開できれば、攻撃者にとって攻略が難しい場所になるはずです。そう思わせることができるよう、頑張っていきましょう。
著者紹介:
宮田健(みやた たけし)
元@ITの編集者としてセキュリティ分野を担当。現在はフリーライターとして、ITやエンターテインメント情報を追いかけている。自分の生活を変える新しいデジタルガジェットを求め、趣味と仕事を公私混同しつつ日々試行錯誤中。
2019年2月1日に2冊目の本『Q&Aで考えるセキュリティ入門「木曜日のフルット」と学ぼう!<漫画キャラで学ぶ大人のビジネス教養シリーズ>』(エムディエヌコーポレーション)が発売。スマートフォンやPCにある大切なデータや個人情報を、インターネット上の「悪意ある攻撃」などから守るための基本知識をQ&Aのクイズ形式で楽しく学べる本です。
筆者より:TechFactoryでの本連載では、ITセキュリティの「あるべき論」「正論」だけでなく、モノづくりに携わる方たちに「気楽に」「楽しく」セキュリティを考えていただけるように、さまざまな話題を取り上げたいと思います。「セキュリティっていわれてもねえ……」と思わず考えてしまった皆さんに覚えていただけるようなコラムにしたいと思います。お楽しみに!
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宮田健の「セキュリティの道も一歩から」
「モノづくりに携わる人」だからこそ、もう無関心ではいられない情報セキュリティ対策の話。でも堅苦しい内容はちょっと苦手……という方に向けて、今日から使えるセキュリティ雑学・ネタをお届けします。
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