宮田健の「セキュリティの道も一歩から」(75)
「USBメモリ紛失事件」で私たちが学ぶべきこと(2/2 ページ)
ネットワークの届かないところに転送するには便利なのだが……
USBメモリは特に、ネットワーク分離を行うエリアにて多用されている印象があります。ビジネスで利用するファイルは非常に大きくなってきたので、普通のオフィスならファイルサーバ経由や、クラウドストレージ経由でファイル交換をしていることでしょう。USBメモリでファイルを転送するということは、USBメモリでなければ転送ができないところがあるからだと思います。特に製造業においては、工場系ネットワークとオフィス系ネットワークがセキュリティの意味で分離されていることが多いため、例えば機器をメンテナンスするためのアップデートファイルや、機器が収集したログ情報などを処理するため、いまもUSBメモリが活用されているのではないかと思います。
が、それこそが本当に気をつけねばならない部分です。あえて分断しているところに橋渡しをすることになるため、USBメモリ自身がマルウェアに感染していないかということはしっかりと対策が行われてしかるべきでしょう。この点に関しては10年以上前から指摘されていることであるため、多くの工場では専用のUSBメモリが用意されていることかと思います。
しかし、本当に気をつけるべきは「USBメモリ」だけではないことをしっかりと認識しておく必要があります。課題となるのは「分断されたネットワーク同士をつなげる可能性のある行為」です。USBメモリだけでなく、メンテナンスを行うために接続する専用のPCだったり、ストレージとしても使えてしまう携帯電話/スマートフォンだったりと、対処すべきデバイスは多いことを忘れてはなりません。2014年にベネッセで発生した内部犯による情報漏えい事件では、USBメモリを接続禁止するなどの対策を行っていたものの、携帯電話やデジタルカメラなどのデバイスには制御がおよんでいなかったということも話題になりました。「USBメモリ対策」だけを行うと、このような漏れが発生する可能性もあるわけです。
なるべくITで防ぐ、そして一部は「人の力」で防ぐ
USBメモリに関する情報漏えいや関連するインシデントは、USBメモリが普及してから十数年がたつ今でも絶えることはありません。おそらく、今後もずっと発生するでしょう。セキュリティの基礎ともいえる部分は皆さんもオンライン研修などで毎年、繰り返し同じようなクイズに答えているのではないかと思いますが、それでも事件が発生してしまうわけです。
しかし、基礎をおろそかにして安全は実現できません。基本的にはUSBメモリを始めとする可搬型ストレージ、実態のないクラウドストレージなど、組織の外に情報を持ち出せる仕組みに対してのIT的対応だけでなく、そもそも外に持ち出すことでどのようなリスクがあるのか、それが明るみに出たときに企業の信頼性はどの程度毀損(きそん)されるのかということを、私たち自身が知っておく必要があると思います。全てをIT任せにすることはできませんが、人間側が何も考えなくていいという状況にするのも難しいのが現状です。
ITの世界には、便利なものが次々登場してきます。私たちにとって便利なものは、もしかしたらサイバー攻撃者にとっても便利ですし、ついうっかり全世界に公開もできてしまう時代です。ITの力を最大限に活用しつつ、個人個人が基礎を学び「とても気をつけながら使う」ことが重要なのかもしれません。
取りあえず、大事なPCや情報を持っている日は、泥酔せずにまっすぐ帰宅しましょう。そして万が一の時は隠さず正直に報告を。尼崎市の事件で最も褒めるべき点はそこでした。
◎併せて読みたいお薦めホワイトペーパー:
» 制御システムの「安全神話」は既に崩壊している
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» 5分で分かるMirai
» セキュリティリスクから工場/生産ラインをどう守る?
著者紹介:
宮田健(みやた たけし)
元@ITの編集者としてセキュリティ分野を担当。現在はフリーライターとして、ITやエンターテインメント情報を追いかけている。自分の生活を変える新しいデジタルガジェットを求め、趣味と仕事を公私混同しつつ日々試行錯誤中。
2019年2月1日に2冊目の本『Q&Aで考えるセキュリティ入門「木曜日のフルット」と学ぼう!<漫画キャラで学ぶ大人のビジネス教養シリーズ>』(エムディエヌコーポレーション)が発売。スマートフォンやPCにある大切なデータや個人情報を、インターネット上の「悪意ある攻撃」などから守るための基本知識をQ&Aのクイズ形式で楽しく学べる本です。
筆者より:TechFactoryでの本連載では、ITセキュリティの「あるべき論」「正論」だけでなく、モノづくりに携わる方たちに「気楽に」「楽しく」セキュリティを考えていただけるように、さまざまな話題を取り上げたいと思います。「セキュリティっていわれてもねえ……」と思わず考えてしまった皆さんに覚えていただけるようなコラムにしたいと思います。お楽しみに!
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宮田健の「セキュリティの道も一歩から」
「モノづくりに携わる人」だからこそ、もう無関心ではいられない情報セキュリティ対策の話。でも堅苦しい内容はちょっと苦手……という方に向けて、今日から使えるセキュリティ雑学・ネタをお届けします。
この記事の著者
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