TechFactory通信 編集後記
なぜ「ラズパイ」が産業機器向けに伸びているのか
登場から4年、既に1000万台以上を出荷したシングルボードコンピュータがあります。元は教育用として企画されましたが、最近では産業機器向けとしても需要が高まり愛知県でも生産を開始しています。
製造元は意図していなかったものの、2016年に約200万台が産業用途向けとして出荷されたシングルボードコンピュータがあります。この製品はシリーズ累計1000万台を越える台数を出荷しており、なおもその需要は高まる一方。その需要に対応すべく、2016年秋には愛知県にあるソニーの稲沢工場でも生産が開始されています。
稲沢工場でお気付きかもしれませんが、そのシングルボードコンピュータとは「Raspberry Pi」です。先に紹介した数字は産業用組み込み機器として用意されている「Compute Module」も含む数字ですが、それでも単一シリーズのシングルボードコンピュータとしては驚くべき数といえます。
Raspberry Piは2012年に、「教育用の安価なコンピュータ」としてケンブリッジ大学でコンピュータサイエンスを教えていたEben Upton(エベン・アプトン)氏が企画開発した製品です。
なぜ「ラズパイ」が産業機器向けに伸びているのか
小型かつ安価、それでいて豊富なインタフェースを備えたRaspberry Piは教育用はもちろんのこと、大人向けの電子工作や、ハードウェアスタートアップにおける試作用としても愛用されていますが、産業機器向け(組み込み向け)としても高く評価されている事に気が付いたアプトン氏は2014年に組み込み用としてCompute Moduleも投入しました。
こう書くとRaspberry Piは「教育用」「産業機器用」と分かれて進化し、近年は産業機器向けに注力しているように見えます。ですが、アプトン氏は「もともとは“優れたオモチャ”というイメージで開発したので、産業用途での使用が増えている事にはとても驚いている」と否定します。
Raspberry Piも一般的なコンピュータと同様、登場以来モデルチェンジを繰り返しており、CPU性能や各種インタフェースを強化しています。ですが、基本的な構造は同一であり、あくまでも単一シリーズとして提供し続けることで提供価格を低く抑えています。その結果、旧モデルは産業機器向け、最新モデルは教育向けというすみ分けになったと言います。
産業用途におけるRaspberry Piのメリットとして、アプトン氏は「パフォーマンスの安定」「低価格」「エコシステムの確立」と3つを挙げますが、そのいずれにも1000万台を越える大量生産が背景にあります。当初からの目的である「教育用に安く」が「大量生産」に結び付き、想定しなかった需要を掘り起こしたともいえるでしょう。
現在、日本では年間12万台規模での販売となっているRaspberry Piですが、英国では年間70~80万台を販売していることから、アプトン氏は日本での販売台数を140~150万台まで引き上げることが目標だと言います。現在の台数からすれば高い目標に見えますが、「産業機器制御コンピュータの有力な選択肢」としての地位を確立すればそう難しい数字とは思えません。
産業機器向けシングルボードコンピュータは多数ありますが、“教育出身”のRaspberry Piがどこまで支持を集めるのか、興味深いところです。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
TechFactory通信 編集後記
「モノづくり総合版 TechFactory通信」に掲載された、TechFactory担当者による編集後記の転載記事一覧です。
この記事の著者
新着ホワイトペーパー PR
-
製品資料
[株式会社 Green AI] 自動車業界には好機 脱炭素×コスト削減×現場改善を実現するエネルギー戦略 -
製品資料
[株式会社 Green AI] 脱炭素投資をすぐ回収したい 自動車業界にも有効なCO2削減アプローチ -
市場調査・トレンド
[スマートジャパン編集部] 「ペロブスカイト太陽電池」の普及戦略が公表 政府が目指すコスト・導入量のロードマップを解説 -
市場調査・トレンド
[スマートジャパン編集部] 導入が加速する再エネ・系統向け蓄電システム コスト・収益性の現状分析 -
技術文書・技術解説
[スマートジャパン編集部] いまさら聞けない「ペロブスカイト太陽電池」の基礎知識と政策動向
関連記事
こんなメディアも見られています
TechFactoryに関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。
特集
- マテリアルズ・インフォマティクスの動向調査
- 研究・開発職のデジタル活用調査
- 設計・解析業務におけるAI活用
- 3Dプリンタ利用動向調査
- CAD利用動向調査
- つながる工場の現状と課題
- 製造業におけるAI開発および活用の実態
- 設計・製造現場における品質管理
ホワイトペーパーランキング PR
-
1
CAE解析をAIエージェントに任せてみた 人は何を担うのか
-
2
高度な半導体/電子デバイスの非破壊不良解析を支える「3D X線技術」に迫る
-
3
「ロボットアーキテクチャ」実態調査2026年版:現在の課題と優先事項を解説
-
4
EE Times Japan×EDN Japan 統合電子版:製造現場にフィジカルAIをどう実装するか――電子版2026年9月号
-
5
スマート工場動向調査2026
-
6
「見て覚えろ」が通じない時代 製造業の保全技術はどのように継承すればよい?
-
7
動き出したファナックの「フィジカルAI」
-
8
【読者調査結果】製造業の脱炭素動向調査2026
-
9
自律走行搬送ロボット(AMR)の位置推定と自律走行はどこまで高精度化できる?
-
10
はじめての化学工学まとめ(Part1)
TechFactory SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
TechFactoryをフォロー