検索
連載

カンニングの防止策 〜 大学の後期試験で得た経験を伝授組み込みエンジニアの現場力養成演習ドリル(19)(1/3 ページ)

今回は、筆者の経験をもとに、「いかにしてカンニングを防止するか?」という課題に対する「ソリューション」を取り上げます。

Share
Tweet
LINE
Hatena

はじめに

 学生にとって、テストさえなければ、人生はバラ色ですね。学生には、年に2回の前期試験と後期試験は大きな試練です。大学の教員にとっても、問題を作り、採点するには、大きなエネルギーが必要になります。その上、キチンと「カンニング対策」をしなければなりません。

 今回は、筆者の経験をもとに、「いかにしてカンニングを防止するか?」という課題に対する「ソリューション」を取り上げます。

全15回の授業「オペレーティング・システム基礎1」


画像はイメージです

 筆者がまだプログラマーだったころ、非常勤講師として、ある大学の「オペレーティング・システム基礎1」という授業を担当しました。情報処理系の学部3年生が対象で、全15回の半期の授業です。受講する学生は約80人。取り上げるトピックスは、「システム資源とOSの概念」「ファイル管理」「マルチ・プログラミング」「プロセス制御」「仮想記憶」「セキュリティ」「並列処理とプロセス間通信」「リアルタイムOS」「ウィルスの基本」でした。

 授業では毎回、プレゼンテーションスライドを30〜40枚作り、学生に配布していました。なので、半期で配布したスライド総数は500枚を超え、ちょっとした書籍に匹敵する量になりました。学生には、「スライドの著作権は私にあるが、スライドは自由に改変して使ってよい」と、「既存物の再利用」を奨励しました。教員の中には、「資料を配布すると学生がノートを取らず、勉強しなくなる」と考えて板書だけの方が多かったのですが、筆者は、「エンジニア向けの有料技術講座」と同じ方針で臨みました。

 有料技術講座と異なるのは、学期末テストがあることです。どんなテストにしようか、いろいろ考え、以下を重視しました。

  • テストは、単に理解力や技術力を評価するだけではない。テスト勉強を通じて、OSを体系的に整理し、理解してほしい。
  • カンニングは絶対にさせない。

 高品質のソフトウェアを廉価で早く開発する方法が「再利用」です。学生には常々、「世の中に既に存在するものならば、イチから自分で作らず、再利用しよう。ただし、著作権などの権利はきちんとクリアすること」と言っています。ある意味、カンニングは、「究極の再利用」です。全くリソースを使わず、最も効率よく、「高品質の製品」を作れます。この「最悪の再利用」は絶対に阻止しようと思いました。

事前公開方式

 カンニングは絶対にさせたくありませんが、80人の学生に1対1の口頭試問を実施するのは時間がかかります。そこで、「カンニングする必要がないテストにする」と発想を換えました。また、「カンニングできる、できない」以前の課題として、「OSをしっかり理解してほしい」との思いがあり、事前に問題を公開する方式にしました。

 15回の授業で取り上げたトピックスの代表的な概念、技術、考え方を問う例題を12問作成し、テストの2週間前に全て公表しました(本記事末に添付資料として例題の実物を掲載しました)。学生には、実際のテストでは、この中から、一言一句変えず、全く同じものを5、6問出題する旨も伝えました。この方式なら、カンニングする必要はありません。

 例題の内容は、少し難しいように感じるでしょうが、どのトピックスも、授業でガッツリ学習していることです。ちゃんと授業を聞いていれば、簡単に正解できます。また、この12問全部にキチンと答えられれば、OSの基本を理解していると言えます。

 90%の学生は、友人と一緒に12問の模範解答を作るでしょう。教えてもらったり、教えたりする過程で、OSへの理解が深まります。これが筆者の狙いですが、問題は、残りの10%の学生で、「カンニングペーパーを12枚作ればいい」と思っているはずです。そんな不心得者も、「事前公開方式」では、実質的にカンニングができないのです。下記の問題で挙げた状況を考慮し、なぜ、カンニングできないかを「ソリューション」として考えてください。

問題【制限時間30分】

 上記の「例題の事前公開」方式を採用しながら、どのようにしてカンニングを防止できるか考えよ。なお、テストを実施する条件は以下の通り。

  1. 試験会場は200人程度収容できる大教室で、約80人が試験を受ける。
  2. 学生は任意の席に座ってよいが、隣とは1つ以上、席を空ける。
  3. 机の上に、書き込みはないことを事前に確認している。
  4. 机の上に、学生証、鉛筆、消しゴム、時計以外は置けない。
  5. 全ての私物はカバンに入れ、引き出しにも、何も入れてはならない。
  6. 大学院生3人が、試験監督を補助。
  7. 試験時間は60分だが、20分経過したら、退室してよい。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

       | 次のページへ
ページトップに戻る