「Connected Industries」とプラント・インフラ保安:製造業のIoTスペシャリストを目指そうSeason2(10)(1/2 ページ)
経済産業省が推進している「Connected Industries」には、「自動走行・モビリティサービス」「ものづくり・ロボティクス」「バイオ・素材」「スマートライフ」「プラント・インフラ保安」の5つの重点取り組み分野があります。今回のコラムは、「プラント・インフラ保安」に関連した内容です。
プラント・インフラ保安
プラント・インフラ保安に関連する火力発電所や化学プラントなどは、法人向けビジネス、いわゆるB2B(Business to Business)のため、一般の方にはなじみが薄いですが、日本の経済を支える重要分野です。プラント・インフラに関しての最優先事項は、安全/安心を保証する「保安活動」になります。
化学プラントでは、2010年以降も三大事故と呼ばれる爆発などの大きな事故により、多くの死傷者が発生し、また近隣住民への影響、また数十億円にも及ぶ損害金額により経営自体が危ぶまれる事態となりました。
この保安を確実に実施するため、各企業では以前のコラムで紹介したようなリスクアセスメントを実施しています。しかしながら、化学プラントなどでは下記のような問題に直面しており、解決に対し、IoT(モノのインターネット)やAI(人工知能)の活用が求められています。下記に、化学プラントにおける特徴とそれに対する課題、また、その課題をAI/IoTを使ってどのように解決するかをまとめた表を示します。
特徴 | 課題 | AIとIoTによる課題の解決 | |
---|---|---|---|
【1】 | 目に見えない状況での制御 | 見える化/モニタリング | IoTの第1段階である「あらゆるモノの状態を監視」 |
【2】 | 設備の老朽化が進んできている | 設備の故障前の問題発見 | IoTの第2段階である「制御による異常事態の早期発見と回避」(センサーデータなどの活用) |
【3】 | 止める(止まる)ことにより、被害が拡大する | 安全な状態への移行方法の明確化 | IoTの第3段階である「最適制御方法の確立」 |
【4】 | 安全/安心が最優先(全てに明確な理由付けが必要) | 安全/安心を含む保全活動のレベル向上 | ディープラーニングを活用しつつ、完全なブラックボックス化の回避(IoTの第4段階である「自律化」の導入は慎重な判断が必要) |
【5】 | 経験を積んだベテラン作業員の目視に依存 | ベテラン作業員の暗黙知の形式知化 | AIで作業者の動作を分析し、形式知化 |
【6】 | 事故/トラブルの学習データが少ない | シミュレーションと熟練工のノウハウ活用 | シミュレーションデータと熟練工のノウハウをAI分析データの一部として入力 |
【7】 | プラントの経年劣化により品質などの予測精度の悪化 | ビッグデータの有効活用 | 個々の工場だけではなく、全ての工場のデータを有効活用。さらには、企業の垣根を超えたデータ利用の連携。 |
【8】 | ベテラン(熟練)作業員の減少 | 人材育成方法の検討 | データを活用した人材育成の推進 |
プラントにおける法規制(保安4法)
一方、プラントには、このような保安を最優先で考えるベースとなる法規制も多数あります。防爆規制と言われるものもあり、一般のスマホやタブレットが持ち込めない(利用できない)区域が存在します。
下記に主な法規制である保安4法と言われる規制の概要を記載します。
- 消防法
- 「火災を予防し、警戒し及び鎮圧し、国民の生命、身体及び財産を火災から保護するとともに、火災又は地震等の災害に因る被害を軽減し、もつて安寧秩序を保持し、社会公共の福祉の増進に資すること」(1条)を目的とする法律
- 労働安全衛生法
- 「労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)と相まって、労働災害の防止のための危害防止基準の確立、責任体制の明確化及び自主的活動の促進の措置を講ずる等その防止に関する総合的計画的な対策を推進することにより職場における労働者の安全と健康を確保するとともに、快適な職場環境の形成を促進する」(1条)を目的とする法律
- 高圧ガス保安法
- 「高圧ガスによる災害を防止するため、高圧ガスの製造、貯蔵、販売、移動その他の取扱及び消費並びに容器の製造及び取扱を規制するとともに、民間事業者及び高圧ガス保安協会による高圧ガスの保安に関する自主的な活動を促進し、もつて公共の安全を確保すること」(1条)を目的とする法律
- 石油コンビナート等災害防止法
- 「石油コンビナート等特別防災区域に係る災害の特殊性にかんがみ、その災害の防止に関する基本的事項を定めることにより、消防法、高圧ガス保安法、災害対策基本法その他災害の防止に関する法律と相まつて、石油コンビナート等特別防災区域に係る災害の発生及び拡大の防止等のための総合的な施策の推進を図り、もつて石油コンビナート等特別防災区域に係る災害から国民の生命、身体及び財産を保護することを」(1条)を目的とする法律
プラント・インフラへのIoT/AI適用
上記のように厳しい法規制の中で、IoTによりデータを収集し、AIを適用する際に考慮しなければいけないことは何でしょうか? また、ドローンやAR(拡張現実)などの活用に対してはどのように考えるべきでしょうか?
プラント・インフラに関しての最優先事項は、安全/安心であることは間違いないですが、そのために変えることに対するリスクを心配するあまり、全く進化しないと日本における競争力はなくなってしまうと言っていいでしょう。何か新しいことを実施すれば、リスクが発生することは当然ですし、そのリスクを適切に評価することが重要です。その際、プラント・インフラにおけるIoT/AIの導入は段階を追って進めることがポイントになります。いきなり、AIによる自律化を目指しても安全/安心は保証されません。例えば、まずはAIによる、担当者へのアシスト(アラーム通知など)の効果から検討することをお勧めします。
また、上記にも関連しますが、「プラント内における危険区域の精緻な設定方法に関するガイドライン」が2019年4月に経済産業省から発行されています。このガイドラインにより、従来「危険区域」と設定していたエリアにおいて、IoTなどで利用する電子機器の利用が可能になる可能性があります。
・参考資料:プラント内における危険区域の精緻な設定方法に関するガイドライン(経済産業省)
今回の問題
それでは、IoT関連の知識・スキルアップに役立つ問題を出題します! 今回は、上記のプラント・インフラの保安に関連する問題です。
問題:
プラント・インフラにおいては、保安が最重要課題である。その中で、この保安活動にIoT(モノのインターネット)やAI(人工知能)を活用しようとする動きがあるが、適用する際は、関連の規制などを理解している必要がある。次の説明の内容として、あてはまらないものを1つ選びなさい。
- 高圧ガス保安法では、「災害」、「高圧ガス又は容器の喪失・盗難」の場合に事故届を提出することを規定されている。
- プラントにおける点検などのドローン活用においては、石油コンビナート等災害防止3省連絡会議 (総務省消防庁、厚生労働省、経済産業省)にて検討が進められている。
- 保安業務などにおいて高度な基準を満たしている事業所は、自主保安高度化事業者として認定を受けることができる。
- 石油コンビナート等災害防止法は、労働災害の防止のための危害防止基準の確立、責任体制の明確化および、自主的活動の促進の措置を講ずるなど、職場における労働者の安全と健康を確保するとともに、快適な職場環境の形成を促進することを目的とする。
※本連載の設問が実際のIoT検定にそのまま出題されるわけではありません。
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