「次世代ERP」のリリースラッシュが起きているのはなぜか:アナリストオピニオン
新コンセプトのERP製品が相次いで発表されている。従来型のERPから大きく刷新されているため、これらの製品は「次世代ERP」「モダンERP」と呼ばれ、新しいタイプのERPと見なされている。本稿では次世代ERPの最新事例として2つの製品を紹介する。
ここ1〜2年、外資系企業が中心となり、新コンセプトの製品を相次いで発表している。従来型のERPから大きく刷新されているため、これらの製品は「次世代ERP」「モダンERP」と呼ばれ、新しいタイプのERPと見なされている。
代表的な製品を以下の表に挙げた。グローバルで最有力ベンダーであるSAPが、2015年11月に23年ぶりにアーキテクチャを刷新してリリースした「SAP S/4 HANA」が象徴的である。ワークスアプリケーションズは、2015年12月に「HUE」をリリースし、リレーショナルデータベースと決別してNoSQLのCassandraを選択したことや人工知能搭載とのアピールによって注目されている。ワークスアプリケーションズ以外の日系ベンダーとしては、富士通の「GLOVIAiZ(アイズ)」、東洋ビジネスエンジニアリングの「MCFrame 7」などが新コンセプトへの変革の可能性を感じさせる。
◎編集部イチ押し関連記事
製造業におけるITソリューション活用
» ERP、国内主要3業種での“磨き”をかけるべきポイント
» AIを活用する次世代ERPの実力
» インフラから「SAP S/4HANA」の運用サポートまでをトータルに支援
» 日系SAP事業者トップを目指し、国内製造業のSAP導入支援に注力
それでは、「次世代ERP」「モダンERP」とはどういうものだろうか。各社の新製品で特徴として挙げられることが多いのは、以下のような点である。
代表的な製品としてSAP S/4 HANAを見てみると、高速インメモリプラットフォームHANAへの全面対応、システム構造のシンプル化、シンプル化による生産性の向上、HTML5を採用した新UIによる使い勝手の良さ、などが特徴になっている。
- クラウド対応
- 業務プロセスへの対応がシンプル
- 導入期間短縮、低コスト化
- 高速処理
- 高いユーザビリティなど
新しいERPが登場している理由を2点挙げると、まず1点目はテクノロジーの大幅な進展がある。ハードウェア、ソフトウェアの進化のスピードは著しく、ビッグデータの高速処理が可能になり、機械学習などの技術の活用も進んでいる。フロント側ではスマートフォンやSNSの普及で利用者の情報システムの利用環境も大きく変わってきている。次いで、社会・経済の環境が急速に変化していることも重要なポイントとなる。日本企業がERPを初めて使い始めた1990年代〜2000年ごろには、多大なコストと長い時間をかけて企業基盤を構築することは珍しくなかった。しかし、昨今はグローバル化、デジタル化、情報化などの影響で、顧客行動、競争環境、業界構造などあらゆるものが劇的に変化している。新興企業が革新的なビジネスモデルによって既存の業界を脅かしている例としてUberやAirbnbが挙げられるが、このような事例は今後いっそう増えていくだろう。重厚長大で硬直化した基幹システムでは、変化に追随できず、かえって経営の足かせにもなりかねない。
次世代・モダンの反対の概念として「レガシーERP」があると考えると、その特徴は以下のようになるだろう。自社の基幹システムが時代の要請にあったものかどうか、いま一度振り返っていただきたい。
- 硬直化
- コストが掛かり過ぎる
- 大量のアドオン、カスタマイズ
- 導入に必要な期間が長過ぎる
- バージョンアップに必要な期間が長過ぎる
本稿では、次世代ERPの最新事例として2つの製品を紹介する。「Dynamics 365」(日本マイクロソフト)と「MCFrame 7」(東洋ビジネスエンジニアリング)である。
Dynamics 365(日本マイクロソフト) 「ERPは死んだ」
新製品として2016年11月にリリースされた。これまでマイクロソフトのエンタープライズアプリケーションのラインアップには、Dynamics AX、Dynamics NAVといったERPとDynamics CRMがあったが、Dynamics 365はERP、CRMという区分がない。それらの機能を統合した1つのアプリケーションで、マーケティングサービスなどの新機能も追加されている。
マイクロソフトの記者会見に登壇したFrank Holland氏が「ERP is dead」、つまりERPは死んだ、と表現したのは印象的だった。マイクロソフトいわく、ERP、CRMなどの区分はベンダーの都合で設けているものにすぎず、今やそのように縦割りで情報を管理する時代ではない。さらに、ERPは会計や人事などの業務を担うのみならず、Office 365、Cortana Intelligence、Azure IoT Suite、Microsoft Flowなど、Microsoft Azureをプラットフォームとするさまざまなサービスと連携して付加価値を提供することにより、企業のビジネスプロセスの最適化をサポートするITシステムそのものである、という観点である。
ERPとCRMの区分がない、というのは他に例のないコンセプトであり、戦略的な製品として注目される。
MCFrame7(東洋ビジネスエンジニアリング) 「SAP同様、シンプルに再設計」
新製品「MCFrame 7」が2017年2月より販売開始となる。生産管理・販売管理システムのMCFrame XAの後継となると同時に、会計システムA.S.I.A.といった他の基幹システムや設計などの関連システムもMCFrameブランドとし、製品のロードマップを共有し連携性を強める。
東洋ビジネスエンジニアリングは、「MCFrame 7を開発したコンセプトは、業務プロセスやデータ構造を大幅に見直し、シンプルにしたという点ではSAPの発想と似ている」という。システム構築や変更にコストと時間がかかるようでは今の時代に通用しないとして、柔軟性のあるERPを実現したという。新機能には、タイムラインによるコミュニケーションの効率化、KPIシナリオをあらかじめバンドルした発展型の分析、スマートデバイス利用に合わせたマルチデバイス対応などがある。
新ERPは外資ベンダーの動きが先行しているが、日系ベンダーでもERPリニューアル計画が水面下で進んでいるとみられ、2017年以降には同社以外のベンダーにおいても具体化が進むと期待する。
Copyright© YanoICT All rights reserved.
関連記事
- スマートフォンとの連携に見るカーナビゲーションシステムの可能性
スマートフォンと車載機器との相性は非常に良く、スマートフォンと車載機器が連携することで得られるメリットは大きい。関連する業界、メーカー、開発者はいま一度その利点を見直すべきである。 - 「あなたは見られている!」ドライバモニタリングの裏側でひそかに進む自動運転時代のビジネスモデル
今回は、自動車産業の将来を見据えつつ、自動運転時代を目前に控えて大きく変貌しようとしている車載HMIについて考察する。 - 第四次産業革命が日本をIoT大国へと変貌させる
第四次産業革命は、今後の生産性革命を主導する鍵となるもので、IoT、ビッグデータ、人工知能、ロボット、センサーなどの技術的ブレークスルー全般を指す概念となっている。これらは重要な技術基盤として位置付けられ、あらゆる産業における変革を促すテクノロジーとして展開されるものとなっている。 - センサーネットワークは社会インフラ化する
近年、注目されるICTテクノロジーに「IoT(Internet of Things)」がある。IoTとは、モノ/ヒト/コトに関する情報を収集し、その情報をインターネット/専用線などを介してクラウドに集め、データ解析することで新たな価値を生み出す仕組みだ。