宮田健の「セキュリティの道も一歩から」(88)
SBOMがあれば脆弱性管理は完璧……となるその前に(1/2 ページ)
「モノづくりに携わる人」だからこそ、もう無関心ではいられない情報セキュリティ対策の話。今回は、セキュリティ観点でソフトウェアの部品管理「SBOM」に注目したいと思います。
筆者がかつてERPパッケージ製品のサポートエンジニアをしていたころ、同じオフィスでは製造業系パッケージのサポートをする同僚が多くいました。パッケージ間の接続があるため一通りの製品を把握したとき、生産管理における部品情報を記録し管理する「Bills of Materials」の考え方を知りました。20年ほど前の話ですが、まさかその言葉が後にセキュリティにおいても注目を集めることになるとは全く思いませんでした。
いま、セキュリティの世界においてソフトウェアの部品管理、つまり「SBOM」(Software Bill of Materials)という考え方が広まりつつあります。2023年8月には、携帯電話事業者であるKDDIが、KDDI総合研究所、富士通、日本電気、三菱総合研究所らとともに、サイバーセキュリティの強化に向けSBOM導入の実証実験に着手したという報道もありました。
さて、このSBOMはどのようなものなのでしょうか。そしてこれはサイバーセキュリティに本当に効くのでしょうか。今回は簡単ですが、この「SBOM」に注目したいと思います。
経産省も資料を公開し始めた「SBOM」
実はこのSBOM、もともとのBOMが製造業での言葉ということもあり、実はTechFactoryの読者の方が、ITの人よりもより簡単に理解できるキーワードになっているかと思います。製造業の文脈では、完成品に至るまでに必要な部品の表を作り、情報を一元管理することで工程管理や原価管理、そして不良品が発生した時の原因究明などに使える仕組みです。これがあることにより、品質が一定になるということも重要かもしれません。その意味では、製造業になくてはならない考え方だと思います。
では、なぜこれが「ソフトウェア」でも注目されているのでしょうか。まず、ソフトウェアの作り方を考えてみます。最近のソフトウェアはいちから全てを作るということはほとんどしておらず、オープンソースソフトウェアやライブラリといった、既に完成しているプログラムのパーツを組み入れて製作するのが一般的です。これにより、高度な機能を持つソフトウェアを、短時間で組み上げることができます。皆さんもPCを使うときに、OSであるWindowsやLinuxから作る人はいないでしょう。それと同じことが、ソフトウェア単体でも行われているのです。
そして、その仕組みはいくつかの“弱い”ところがあります。例えばそのパーツとして組み入れた小さなプログラムに不具合があったとき、当然ながら完成されたソフトウェアにも不具合が埋め込まれた形になります。こうならないよう、製品(プログラム)のテストがしっかりと行われていれば良いのですが、テストが漏れていたり、そもそもテストしにくいような「脆弱性」が含まれていた場合、非常に大きな問題となります。特にIoTや自動車のように、製品の中に組み込まれたプログラムはそう簡単にアップデートができません。アップデートができたとしても、不具合を持つパーツを組み込んだプログラムがどの製品に含まれているのか、すぐに把握することが難しいのです。
2021年12月に大きな話題になった「Apache Log4j」の脆弱性「Log4Shell」は、その影響範囲が非常に大きいだけでなく、そもそもどの製品にこの脆弱性が含まれるのかが分かりにくいことが問題となりました。Apache Log4jと名付けられたプログラムだけでなく、該当のコンポーネントを含む製品が多数あったのです。例えば米マイクロソフト社が提供する子どもたちに人気のゲーム「Minecraft」も、このコンポーネントを含むことから脆弱性対応の修正が出ました。おそらく、いまでも未対応のプログラムは多数存在するはずです。
そこで、オープンソースソフトウェアを始め、このプログラムがどのような「部品」で構成されているのかを、あらかじめ定義したフォーマットで一覧する仕組みを作り、何らかの問題のある部品が見つかったとき、その部品を含むプログラムはどこにあるのかを把握できるように考えたのが、ソフトウェアのBOM「SBOM」なのです。これがあれば、脆弱性がどうプログラム内に残っているのか、影響はどの程度あるのかが分かるはずです。
2021年5月12日に発行された米国大統領令「Improving the Nation's Cybersecurity」では、サイバー攻撃に対して「デジタルインフラの透明性を高める」ための対策の一つとして、SBOMの導入が明記され大きな注目を集めました。そして日本でも2023年7月、経済産業省はこのSBOMに関する手引き書を公開しました。SBOMをさらに知りたいかたは、ぜひこちらも目を通してみてください。
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宮田健の「セキュリティの道も一歩から」
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