電子機器設計/組み込み開発メルマガ 編集後記
GaN市場でInfineonが5位から2位に急浮上 AIが変える勢力図
5位から2位へ――。GaNパワーデバイス市場でInfineon Technologiesが急速にシェアを伸ばしています。
この記事は、2026年9月7日発行した「電子機器設計/組み込み開発 メールマガジン」に掲載されたコラムの転載です。
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GaN市場でInfineonが5位から2位に急浮上 AIが変える勢力図
5位から2位へ――。窒化ガリウム(GaN)パワーデバイス市場でInfineon Technologies(以下、Infineon)が急速にシェアを伸ばしています。
フランスの市場調査会社Yole Group(以下、Yole)が2026年8月に発表した最新調査「Power GaN 2026」によると、2025年のGaNパワーデバイス市場は前年比約63%増の5億8800万米ドルに拡大。企業別では中国Innoscienceが31%のシェアを獲得して首位を維持した一方、Infineonが16%で2位に浮上しました。
前年の2024年は市場規模が3億6100万米ドルで、Innoscienceが30%で首位、NavitasSemiconductor(以下、Navitas)が17%で2位、Power Integrationsが15.2%で3位、EPCが13.5%で4位、Infineonは11.2%で5位でした。つまりInfineonは、市場自体が6割以上拡大する中で、それを上回るペースで売り上げを伸ばし、シェアも4.8ポイント拡大したことになります。
AIインフラが開くGaN市場の「第2章」
YoleはGaNパワーデバイス市場が2025~2031年に年平均成長率(CAGR)35%で成長し、2031年には35億米ドル規模に達すると予測しています。これまで市場をけん引してきたのはスマートフォンなどの急速充電器でしたが、今後はAIデータセンターや電気自動車(EV)、産業機器、再生可能エネルギーなどで需要拡大が見込まれています。特に自動車向けは2025~2031年にCAGR57%、AIデータセンター需要がけん引する通信/インフラ向けも同45%で成長する見通しです。
筆者が2026年6月にドイツ・ニュルンベルクで開催された「PCIM Expo&Conference2026」を取材した際にも、AIサーバ/データセンター向け電源を意識したGaNの展示が目立ちました。数年前までGaN専業メーカーの存在感が大きかったのに対し、今回は大手パワー半導体メーカー各社がGaNを大きくアピールしていたことも印象的でした。
YoleのRoy Dagher氏も、今回の調査発表の中で「AIインフラがGaN市場の『第2章』を開こうとしている」と説明しています。
シェアを最も大きく伸ばしたInfineon/IP巡る戦いの激化
その中で一気に順位を上げたのがInfineonです。Yoleによると、同社は2025年にデータセンターや再生可能エネルギー向けで採用を拡大し、GaNメーカーの中で最も大きくシェアを伸ばしました。
Infineonは2023年、GaNパワー半導体を手掛けるGaN Systemsを8億3000万米ドルで買収。GaN Systemsが持つ技術や製品、IP(Intellectual Property)、アプリケーションノウハウ、顧客基盤などを取り込み、GaN事業を強化してきました。製造面でも投資を進め、300mm GaNウエハーを用いた製造技術を手掛けています。
市場拡大を背景にGaN技術の戦略的重要性が高まる中、IPを巡る争いも激しくなっています。InfineonとInnoscienceは世界各地で特許紛争を展開。米国では2026年5月、米国国際貿易委員会(US ITC)がInnoscienceによるInfineonの特許侵害を認定し、一部製品の輸入/販売禁止を命じました。ドイツでもInfineon側に有利な判断が出ています。一方、中国ではInnoscience側に有利な判断が出ており、トップ2社の争いは地域や特許によって状況が分かれています。
GaNを巡る訴訟は両社だけではありません。2026年7月にはWolfspeedがNavitasをGaN/SiC関連の特許侵害で提訴。ルネサス エレクトロニクス(以下、ルネサス)とNavitasも、AIデータセンター向けGaN技術に関する企業秘密や特許を巡って互いを提訴しています。
「統合期」から「生産拡大期」へ
こうした企業間の競争と並行して、GaN業界の産業構造そのものも変わりつつあります。Yoleは、GaNパワー半導体業界がこれまでの「統合期」から、需要拡大に対応するための「生産拡大期」に移行しつつあると分析。その大きなトレンドとして、垂直統合型デバイスメーカー(IDM)主導のエコシステムの台頭を挙げています。
首位InnoscienceはGaN専業のIDMとして、早くから200mm GaN-on-Siの大規模な生産体制を構築してきました。一方、近年は既存の大手半導体メーカーもGaN技術を相次いで強化しています。InfineonによるGaN Systems、ルネサスによるTransphorm、onsemiによるNexGen Power Systemsの買収などです。Yoleによれば、こうした大手はGaNの生産を内製化するとともに、既存の200mm/300mm製造インフラを活用し、量産能力の拡大を進めています。
同時に、IDMやファウンドリー、エピタキシャルウエハーサプライヤー、技術開発企業などの提携も増えています。特にAIインフラや自動車向けでは、市場投入までの時間短縮や供給安定性の確保を目的に、企業間の連携を強化する動きが広がっています。
ファウンドリー側でも変化があります。TSMCがGaNファウンドリー事業から撤退する一方、GlobalFoundriesやX-FAB、VIS、PSMC、Samsung Electronics、DB HiTek、SK keyfoundryなどがGaNへの対応を拡大。Yoleは、垂直統合の進展に加え、ファウンドリー能力の拡大や製造地域の分散によって、GaNのサプライチェーンがより成熟し、供給体制も強化されつつあると分析しています。
今回順位を大きく上げたInfineonも、こうした変化を象徴する存在といえます。同社はGaN市場が急拡大するタイミングで、既存のGaN技術に加えて、買収によって獲得した技術やIP、顧客基盤と自社の製造基盤を組み合わせ、AIデータセンターや再生可能エネルギーなどの新たな需要を取り込みました。
新市場を狙うGaN各社の戦略
また、GaN事業を強化する大手半導体メーカーは、自社が持つ幅広い製品群との組み合わせも強調しています。AIデータセンターやEV、産業機器などでは、GaNだけでなくシリコン/炭化ケイ素(SiC)パワーデバイスやゲートドライバー、制御ICなど幅広い製品が使われます。Infineonをはじめ、ルネサスやonsemi、STMicroelectronicsなどは、GaNをこうした既存の製品群に加え、より広範なソリューションを提案できることを訴求しています。
一方、首位Innoscienceも車載やデータセンター向けの事業拡大を続けているほか、Navitasもスマートフォン向け急速充電器などから、AIデータセンターや産業、エネルギーなど、より付加価値の高い市場を重視する方向へ軸足を移しています。
AIによってGaNの用途が急速充電器からデータセンターやEV、産業機器へと広がる中、各社はそれぞれの強みを生かして新たな市場を狙っています。Infineonの5位から2位への浮上は、その競争が本格化していることを示す動きの1つです。AIがGaN市場の「第2章」を開く中、各社がどのような勝ち筋を築くのか。それによって、GaN市場の勢力図は今後さらに大きく変わる可能性があるでしょう。
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