IT導入完全ガイド
4年後には16兆円市場に! IoTの“魅力”とは何か!?
「IoT(Internet of Things:モノのインターネット)」を理解し活用するための基礎知識として、IoTの全体像を整理する。
国内のIoT市場は現在トータルで9兆円、年12%で成長して2019年には16兆円の市場になると見込まれている(IDC Japan調査より)。IT業界内では成長が確実に見込める領域であるだけに注目度は高いが、ユーザー企業からは「IoTって何?」あるいは「ビジネスにどう生きるの?」との声が聞こえ、まだまだ具体的な導入検討段階に至らない場合が多いようだ。今回は、IoTを理解し活用するための基礎知識として、まずはIoTの全体像を整理してみたい。
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「IoT」って何?
「モノのインターネット」と呼ばれてキーワードとしては広く知られるIoT(Internet of Things)だが、「Things」の解釈はさまざまで、最近では「モノとコト」を含むといわれたり「世の中の森羅万象が対象」とまで広げて「IoE(Internet of Everything)」と言い換えられたりしており、とらえどころがないと感じる人も多いだろう。
とはいえもともとは工場などに設置された多数のセンサーで機械の動作状況や環境変化などを監視し、制御に役立ててきた技術の発展形。特別な技術的変革が急に現れたわけではない。徐々に進んでいた各種センサーなどデバイスの低コスト・多機能・高性能化、ネットワークの高速化、IPv6化、クラウドの普及、移動通信技術やサービスの発達、ビッグデータ分析技術の高度化などの多面的な技術発展と、同時に発展してきたコンシューマー領域でのスマートデバイス、ウェアラブルデバイスなどの進化および利用の普及が合体して、これまで工場や企業の枠の中に閉じ込められてきた技術が、企業間、業界内、サプライチェーン全体、あるいは社会インフラ全体といった広い範囲で利用可能になってきたことが背景にある。そこで集まる膨大なデータをうまく利用すれば、これまでにない「何か」ができるはず……というのがIoTの発想だ。
IoTで可能になる「何か」があまりに広い領域に及ぶので具体像がかえって見えにくいのだが、突き詰めれば生産性の向上と新しい価値の創出(企業にとっては新ビジネスモデルの創出、社会にとっては利便性の向上や公共・福祉・エネルギー利用の効率化など)ということになる。価値創造のために、さまざまな物理現象や人間行動などをデータ化するデバイスからの情報を、通信によってデータベースに集約し、ビッグデータ分析(人工知能や機械学習技術を利用することもある)を行い、その結果を現実世界にフィードバックするのがIoTの価値創造プロセスだ(図1)。
今では実際の事例が幾つも出てきており、数年のうちには実現しそうな想定事例も多数あって、もはやIoTはただのコンセプチュアルなキーワードではなくなった。詳しいユースケースは次回以降の記事に譲るが、ここで大枠を簡単に紹介してみよう。対象となる領域を大別すれば、社会インフラと産業の2つだ(図2)。
産業と社会インフラのイノベーションをIoTによって推進しつつ、従来の基幹系システムや情報系システムはそれと密接に連携できるようにモダナイゼーションを図るのが基本的なイメージだ。では、2つの領域でどんなイノベーションが想定されているのだろうか。
社会インフラ領域は「スマートモビリティ」と「スマートグリッド」などがけん引
社会インフラでのIoT推進で特に期待されているのは自動車や主要道路に備えたセンサーから得られる各種情報をもとに、渋滞緩和や事故防止などの最適制御に役立てる「スマートモビリティ」だ。車の運行状況をエリア全体でモニターすれば、リアルタイムの最適ルート選択や危険の発生を予測して回避することができる。さらに街灯に備えたセンサーの情報を使う道路照明の最適制御も考えられており、快適性や安全性が向上するのはもちろん、省エネルギーやCO2削減、物流の効率化にもつながる。
また通信機能を持った電力計(スマートメーター)を利用し電力消費状況をリアルタイムにモニターして、需要に見合う電力(発電や蓄電)調整を行う「スマートグリッド」は、自然エネルギー利用を拡大する重要要素と考えられている。HEMS、BEMS、CEMSと呼ばれるエネルギー管理技術も家庭、オフィスや工場、地域に備えられた多数のスマートメーターからの情報集約を前提にしている。
加えてヘルスケア領域では、各種のウェアラブルセンサーからの情報によるセルフケアおよび医療・介護サービスの高度化や世界的な情報蓄積・活用による診断の迅速化などが注目されている。
これら3領域の他には、温度・湿度・光量・ガス・放射線などのセンサーを用いた環境モニターシステムにも期待が高い。主に農業分野での生産性向上や公害予防などの環境改善のために既に使われているが、これがより一層広い圃場全体や地域全部をカバーすることで、飛躍的な効果がもたらされると考えられている。
加えて、人感センサーやカメラを用いた犯罪防止システムも、広範囲に収集した情報を蓄積して利用することで、一層の効果が発揮できるとされる。
各国では政府が中核的な企業とともにこれら領域のIoT活用に注力しており、例えばシンガポールのSmart Nation Platform、台湾とフランスが連携する「IoT Lab」などの事例があり、インドなどでもスマートシティー化計画が進んでいる。アメリカ、ドイツ、イギリス、中国、韓国も国策としての取り組みが盛んだ。
産業界では「第4次産業革命」としての位置付け
一方、産業応用の面では日本に先行事例がある。コマツによる「KOMTRAX」だ。2000年ごろからの同社の取り組みは、建設機械の盗難防止や盗難に遭った機械の発見を当初は目的としていた。機械にGPSを付け、制御装置のデータと合わせてセンターにデータを集約して管理可能にしたところ、各機械の位置が把握でき、遠隔から操作ロックなどの制御もできるようになり、劇的に盗難が減ったという。機械自身がローカルな情報収集と通信機能を備える発想はその後機械の稼働管理や保守、運転支援、無人運行システム、全自動で作業が行えるブルドーザーなどの新しい製品につながっている。
Industrie 4.0とは?
このような建設や製造業の機器制御に関する取り組みが国内に幾つかある(次回以降で紹介)一方で、企業間や業界内、あるいは業界横断的な広がりを目指す取り組みは、海外の方が進んでいる。最近最も注目されているのが、ドイツが国を挙げて取り組んでいる「Industrie 4.0」だ。製造装置の生産性指標の標準化を通して、さまざまなデバイスから広く適切に情報を収集し、分析して経営に役立てるという考え方をとる。しかも複数企業が連携したサプライチェーン全体を視野に置く。これはドイツ発祥のERPベンダーSAP社の基幹システムコンセプトと重なり、SAP社の存在感が大きい。
Industrial Internet Consortium(IIC)とは?
また、アメリカではGE社を中心にした「Industrial Internet Consortium(IIC)」が主導している。こちらは製造業ばかりでなく、エネルギー、ヘルスケア、公共、運輸の領域も対象とし、上記の社会インフラにも貢献するものだ。インテル、シスコシステムズ、IBM、AT&Tが加わって創設され、日本を含め多くの国の企業がこれに参加している。基本ソフトとデータベースをオープンソースとして標準化し、モノの管理と情報分析を効率化することを目指しているのが特徴だ。
国内では?
Industrie 4.0もIICも目指しているのはグローバル標準化だ。それがもたらす産業へのインパクトは甚大で、「第4次産業革命」とも呼ばれている。日本はこちらの面では出遅れた感があるが、経済産業省では「データ経営2.0」と題して情報経済小委員会でIoTの活用を議論しており、自前主義から脱却した企業間連携を促進するための産業横断的な連携の必要性が指摘されている。また「スマートコミュニティー」はじめ「スマート…」を冠したプロジェクトが幾つも進められているが、IoTはその有力な要素として認識されている。
5つのレイヤーの水平展開と垂直統合
次にIoTの要素となる技術について見てみよう。調査会社のIDC Japanでは、IoTを5つのレイヤーに整理している。これに沿って概要を紹介する。
IoTの5つのレイヤーとは
【レイヤー1】IoTデバイス(エッジデバイス)
最下層に当たるレイヤーは「IoTデバイス」である。センサーなどを組み込んで情報を取得できる機器のことで、国内で大規模に導入が進んでいるのはスマートメーター。電力使用データ取得と通信機能を持つこのデバイスは2015年末には1000万台以上が導入され、ゆくゆくは全世帯5000万にまで拡大する。他に普及が進むと見込まれているのは、次のようなデバイスだ(参考:経済産業省「IoT時代に対応したデータ経営2.0の促進のための論点について」)。
| 製造・販売分野では | 在庫管理用スマートタグ、建機用エンジンなどのモニターシステム、プログラムなどのコントロールシステム、製造現場用スマートロボットなど |
|---|---|
| モビリティ分野では | オーディオ、テレマティクスなど、シートベルト、エアバッグなど、先進運転支援システム(ADAS)、後付け型カーナビ、オーディオ、電気自動車/ハイブリッドカーバッテリーシステムなど |
| ヘルスケア分野では | スマートウォッチ、センサー付き衣類、運動時の身体ログ用時計、運動ログなど管理装置、高齢者・要介護者の生活補助装置など |
| エネルギー分野では | 電気用スマートメーター、スマート電源ソケット、アダプター、充電メーター、ガス用スマートメーター、サーモスタット、発電所におけるセンサー、各種ネットワークのコントロールパネルなど |
| 政府部門では | 天候・公害・騒音センサー、道路状況管理センサー、橋や道路などの耐久性モニター、駐車メーター、自治体設備の管理センサーなど |
| 表1 普及が進むと見込まれているIoTデバイス | |
【レイヤー2】通信モジュール、通信回線、通信機器
次のレイヤーは、キャリアや通信機器ベンダーが提供する通信モジュール、通信回線、ルーター、スイッチなどの「通信関連リソース」だ。このレイヤーには既存や新規の標準が幾つかある。例えば省電力無線ネットワークの6LoWPAN、省電力センサーのためのZigbee、IP500、日本発のものでは省電力無線技術のWi-SUN、スマートホームのためのECHONET、スマートフォンと外部デバイスの連携を担うGotAPIなどだ。また通信を主とした標準化プロジェクトには、LTEやLTE Advancedを利用する大規模無線ネットワークの3GPP、M2M通信の規格化を目指すoneM2M、新プロトコル「Thread」の導入促進を目指すThread Group、産業・自動車向けイーサネット規格のEthernet AVBを拡張する「TSN(Time-Sensitive Networking)」の普及を目指すAVnu Allianceなどがある。
【レイヤー3】IoTプラットフォームソフトウェア
次のレイヤーは、GE社の「Predix」のような、IoTプラットフォームとなるソフトウェアだ。通信機器やデバイスの保守や遠隔ファームウェアアップデート、アプリケーション開発支援やAPI提供などを担当する。このレイヤーで競争優位に立つことが、IoTビジネスで覇権を握ることにつながると考えられており、企業間だけでなく国家間でも争われているのが現状だ。他には、IoT Foundation(IBM)、ThingWorx/Axeda(PTC)、docomo M2Mプラットフォーム(NTTドコモ)、GDSP(vodafone)などがある。富士通も2015年8月からFujitsu Cloud Service IoT Platformの提供を開始し、既存システムと革新システムとの連携を実現する同社の「デジタルビジネスプラットフォーム(MetaArc)」の一部とした。
【レイヤー4】アナリティクスソフトウェア
その上部にあるのが、分析系のソフトウェアだ。高速な処理が可能なビッグデータ解析ソフトウェアが中心的な役割を果たす。IBM、SAP、AWS、マイクロソフト、Google、Salesforce.com、オラクルなどの製品が使われる。なお、レイヤー3、4のソフトウェアはIoTインフラとしてのサーバやストレージ、アプライアンスの上で稼働することになるが、ハード・ソフトをひとまとめにしたPaaSとして提供されることもある。今後はPaaS間で競争が激化すると思われる。
【レイヤー5】垂直市場ソリューション/専門サービス
一番上のレイヤーは、下位レイヤーの全てを垂直統合するソリューションおよびSIサービスになる。GEやPTC、シーメンス、ボルボなど、国内では大手建設・機械ベンダー、自動車ベンダー、電力会社などがこの領域のプレイヤーになっている。しかし特定の1社だけで全てのレイヤーの製品やサービスを取りそろえることはできておらず、不足する部分はパートナーとの提携で補っているのが現状だ。
また取り組みの仕方としては汎用的なIoTプラットフォームを中心にして上下のレイヤーの技術を取り込んでいく形をとる場合(図3)と、特定業種や目的に特化して一気通貫のソリューションにする場合とがある。
全レイヤーにセキュリティが必要
これら5つのレイヤーと、IoTインフラの全体にわたって、データの暗号化送受信や保管、マルウェア感染対策などが非常に重要になる。セキュリティベンダーがこの部分を担うことが多い。
以上、簡単にIoTの全体像を紹介した。巨大企業が中心となってIoTの標準化と垂直統合を図っている一方で、IT企業の多くは各レイヤーの水平展開を図っている。ビジネス上でどのような価値を生むのかをよく検討し、競争力のあるアプリケーションやサービスを他社よりも先に見いだすことが、近未来の企業価値を決めるといわれている。
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