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» 2016年09月27日 09時00分 UPDATE

アナリストオピニオン:「あなたは見られている!」ドライバモニタリングの裏側でひそかに進む自動運転時代のビジネスモデル

今回は、自動車産業の将来を見据えつつ、自動運転時代を目前に控えて大きく変貌しようとしている車載HMIについて考察する。

[矢野経済研究所 ICTユニット]
矢野経済研究所 ICTユニット

 当社では2016年1月から16年9月にかけて調査を実施し、市場調査レポート「2016年度版 車載HMI/ドライバモニタリング市場」(「市場分析編」「企業戦略編」の2分冊)を発刊する予定である。

 この1年間に世界の車載HMIには大きな変化があった。それは自動運転がいよいよ現実のものとなり、2020年を目標に自動運転カーが市場に出回ることが明確化したためである。車載HMIにも、自動運転カーやその前に来るADAS搭載車に対応することが求められてきた。またドライバに向けての表示ばかりではなく、ドライバ自身の情報をクルマがモニタリングする必要も出てきた。

 今回のアナリストオピニオンでは、自動車産業の将来を見据えつつ、自動運転時代を目前に控えて大きく変貌しようとしている車載HMIについて考察していく。

自動運転とともに重要度増すドライバモニタリング

 米国運輸省の国家道路交通安全局(National Highway Traffic Safety Administration、略称:NHTSA。通常、話し言葉では「ニッツァ」と呼ぶ)は、下記表のように自動運転システムの自動化レベルを0〜4までの5段階で分類し、発表している。

自動運転のレベル0〜5における機能内訳 図表:自動運転のレベル0〜5における機能内訳(矢野経済研究所作成)

 当社発刊の調査レポート「2015 自動運転システムの可能性と市場展望 〜Tier1/自動車メーカーの開発動向〜」では、2020年におけるレベル2の自動運転システム世界搭載台数は、360万台に拡大すると予測した。また2020年には、米国・欧州市場でレベル3の自動運転システムが若干搭載される見込みである。2020年の世界の新車販売台数を約1億台とすれば、そのうち6%がレベル2以上の自動運転カーになっているといえる。

 さらに、レベル2の自動運転システムの普及拡大とコストダウンが2020年以降に進み、ミドルクラス以下の車種でも搭載が増加する見込みである。このため、欧米を中心にレベル2、レベル3の自動運転システムの市場はともに堅調に拡大し、2030年のレベル2の自動運転システム世界搭載台数は3155万台、同じくレベル3の自動運転システム世界搭載台数は979万8000台に達すると予測する。2030年の世界の新車販売台数を約1億2000万台とすれば、そのうち34%がレベル2以上の自動運転カーになっているといえる。レベル2とレベル3はほぼ同時に普及が進むことになりそうだ。

 その上位となるレベル4(完全自動運転)の自動運転システムについては、技術的ハードル、事故責任の所在、法整備などを考えると2030年以降に本格的な実用化になると考える。

 実はこの自動運転対応こそが、次世代の車載HMIにおける最重要ポイントとなる。2020年から搭載が進むレベル3の自動運転システムにおいては、前出の表にあるように、「自動運転⇔手動運転」の切り替え(受け渡し)が重要視される。システムが自動から手動に切り替えようとしたときに、ドライバが眠っていたら危険だ。そこで「ドライバが眠っていないか、健康状態は良好かをカメラ画像解析などでチェックする」ためのドライバモニタリング機能を持つ車載HMIが安全性確保のために必須となってくる。「自動運転⇔手動運転」では、両者における受け渡しのルール(何秒で代わるか)を業界で決めなくてはならない。それを何秒にするかは協調領域だ。このドライバモニタリング機能こそが、2020年以降の自動車運転時代の車載HMIにおける最大の特徴といえる。

ドライバモニタリングの裏側で考えられていること……あなたは見られている

 ところで「ドライバモニタリング」だが、自動車におけるハードウェアのビジネスではあるし、カーナビやスピードメーターのような車載情報システムの進化形と捉えられもするが、実は「裏の目的はデータ収集」といわれている。「裏の目的」などというとちょっと怪しく聞こえてしまうが、これは世界最先端のビジネスモデルにも通じている。なぜならドライバモニタリングにおいては、ドライバ情報を各種センサーで収集するが、それらのデータはやがて通信により車外のセンターサーバに収集される。そして、その大量なデータをDB化し解析することで、自動車メーカーはそれを使ってコンサルを行うなどのビジネスモデルを構築。そのことによって新たな企業資産を作り出すことが可能となるのだ。ドライバモニタリングは、顧客であるドライバの安全を守るためのものとして普及するが、その裏側ではドライバの各種情報をサーバに吸い上げるための役割をも果たす。つまりドライバモニタリングは、自動車メーカーの新たなビジネスモデルを創出するためのツール、つまり金のなる木としても期待されているということだ。

 こうしたビジネスモデルを世界で最初に立上げたのはグーグル(アルファベット傘下)だ。同社はユーザーから吸い上げた情報を最も有効活用して2000年代に検索エンジンで急成長を遂げ、今やアップルに次いで世界での企業時価総額ランキング2位に君臨している。グーグルは収益の多くをアドワーズ(AdWords)と呼ばれるオンライン広告から得ているが、その広告に威力がある理由の1つは「いかに広告効果があったかを広告主にアピールするプレゼン力」であり、そのために世界中のPC・スマホユーザーがグーグル検索に広告主関連キーワードをどの程度打ち込むか……などというデータを常に収集・解析しているという。

 グーグルのサーバは、ユーザーが入力したキーワードに対してユーザー自身が興味を持っていると認識し、それをDB化し、だからこそレコメンド情報を送ってくるのだ。ユーザーはレコメンド情報をもらえる代わりに、グーグルにユーザー情報を収集されDB化され解析され、グーグルのオンライン広告のプレゼンに使われてしまう。スマホユーザーの中には「足長おじさんがタダでスマホOSを使わせてくれている。タダで地図を使え、膨大な知識にアクセスでき、動画や音楽を楽しめる」と思っている人が結構いるのではないか。しかし、実はグーグルにデータ収集されているのである。あなたは見られているのだ。

 そして、このグーグルという企業こそがレベル4自動運転カーを世界に先駆けて打ち出し、実証実験を行っているわけで、同社は将来自動運転カーにおける車載HMIシステムを構築し、そこにドライバモニタリング情報を活用していくことは間違いない。グーグルは、PC・スマホで検索サービスのキーワードを収集して解析したように、車載においても人間の状態データを収集して解析するであろう。ただし運転中にドライバが検索サービスを使用するのは危険であるから、ドライバモニタリングの各種センサーにより、ドライバの視線移動、ジェスチャー認識、眠気判別などを行い、そのデータを収集して解析するようになっていく。もちろん、こうした米国ITベンダーからの挑戦を受け、もともとの自動車産業のプレイヤーたちはただ指をくわえて見ているわけにはいかない。それがグーグルに対抗することになるのか、あるいはグーグルと共同歩調を取ることになるのか、は各社の判断によるだろうが……。

中国監視カメラ市場を見れば分かること

 ドライバモニタリングは「自動運転時代の安全性確保のため」という大義とともに、「ドライバのデータを収集して解析する」という役割をも果たす。そうしたドライバモニタリングというシステムの性格からすると、今後世界においてこのシステムを必要とする地域は多い。高齢者ドライバが増加しそうな日本、欧州などの地域において、判断スピードの衰えた高齢者の運転支援装置として動き出しそうだ。耳や目などの五感の衰えたドライバに対して危険を的確に伝えたり、高齢者ドライバの健康状態をチェックしたりするなどの役割を果たす。

 それとは別な理由ではあるが、特に中国ではドライバモニタリング市場が大きく動きそうだという声を聞いた。そう考えられる理由として、下記図表「監視カメラシステム・(総市場)世界エリア別構成2014年(台数ベース)」(出典:矢野経済レポート「2015年度版監視カメラ市場予測と次世代戦略」)をご覧いただきたい。

監視カメラシステム 図表:監視カメラシステム・(総市場)世界エリア別構成 2014年(台数ベース)(矢野経済研究所推定)

注:ブランド分=国内メーカー17社と海外メーカー18社、計35社のブランドが浸透した調査対象での数値。



 この図表によれば、2014年の世界監視カメラ市場において、なんと中国市場が47%を占めているという。確かに「世界人口白書2014年」によれば、中国人口は13億6800万人と世界1の人口大国だが、それでも世界人口72億7500万人の19%にすぎない。それから考えればこの監視カメラの47%というシェアは尋常ではない。

 なぜ中国ではこんなに監視カメラが多いのか? 一説によれば中国共産党が、周辺民族監視のために国中の街路などに監視カメラを設置しているからだというが、どうだろうか。もしもそれが本当ならば、国中の自動車のドライバの状況把握のために、ドライバモニタリング搭載を義務化するかもしれない。そうなれば年間2500万台の中国新車に搭載されるわけだから、世界年間自動車生産台数9000万台の28%程度にドライバモニタリングが搭載されてしまうということになる。

自動運転時代の期待のカーエレユニット“車載HMI”

 このように車載HMIは、これまでのカーナビやメータ群のように「(1)ドライバに表示すること」を目的としていたが、ドライバモニタリング機能が加わることで「(2)データ収集」という新たな目的が生まれた。今後、さらにクルマが所有の時代から共有の時代にシフトしていく中で「(3)カーシェアでの表示」が生まれそうだ。またクルマと社会インフラが融合していく流れの中で「(4)エネルギー端末としての表示」も動きそうだ。最も日本で期待されているのは、前述したように「(5)高齢者向けの表示」であろう。

 車載HMIは、自動運転時代に向けて、各自動車メーカが全存在をかけて開発に注力するオリジナリティ溢れた技術である。また発展途上国であろうが、先進国であろうが、ことHMIについては、世界のどこの国でも「わが国オリジナル」を求めるのではないか。なぜならHMIというものは、その国の文化、その国民の性格などをすべて総合して考えるべき、広がりとともに深みを併せ持つシステムであるからだ。従って、同システムの技術はこれから世界の地域ごとに多様な進化を遂げ、それがお互いに影響し合いながらさらに進化し、自動運転時代の自動車産業を支えていくことになる。


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